BLEACH 千年血戦篇

SPECIAL

キタニタツヤインタビュー

“皆が誰かを護って誰かに護られている”
キタニタツヤが思う『BLEACH』の構造を表現した『スカー』

――「千年血戦篇」のオープニングテーマを担当すると決まったときのお気持ちをお聞かせください。

キタニタツヤさん(以下:キタニ)

「千年血戦篇」のオープニングテーマを制作するにあたって、実は3曲作って提出したんです。「絶対に主題歌を勝ち取ってやる!」「アニメ「千年血戦篇」で流れる曲は僕の作った曲にしたい!」と思いながら魂を込めて作ったので、選んでいただけて嬉しかったですし、大変光栄です。そして安心しました(笑)。
――残りの2曲はどういった曲ですか?

キタニ

3曲それぞれ方向性は違っています。1曲はユーハバッハに焦点を当てて作った曲で、もう一曲は他の2曲とはまた違ったところに「千年血戦篇」のスポットを当てていて、曲調はテンポが比較的遅く、ロックとは異なる曲になっています。実はオープニングテーマを担当させていただくことが決まった時点では、どの曲がオープニングテーマに選ばれたのかは知らなかったんです。その後、久保帯人先生をはじめアニメスタッフの皆様に「スカー」を選んでいただきましたが、それまでは3曲の中では「スカー」が一番自信がなかったんです。でも、アニメ映像を乗せたオープニングを観たときに「この曲で良かった、この曲が一番いい!」と本当に心から思えました。多分、皆さんが“音楽とアニメ映像をミックスした”オープニング映像をイメージして「スカー」を選んだんだろうと思います。
――原作20周年プロジェクトとして昨年から各所を巡回している「BLEACH EX.(以下:原画展)」のテーマ曲(「Rapport」「タナトフォビア」)に続いての担当になります。

キタニ

これまで名だたるアーティストが素晴らしい曲でアニメのオープニングテーマを担当されてきたのでプレッシャーはありました。原画展のテーマ曲を作るときも“人生で一番のプレッシャー”を感じましたが、今回のアニメオープニングテーマに関しては、それを余裕で越えてました(笑)。それもあり、少し怖かったので発表された後、ファンの方々の反響を見ていなかったんです。でも、YouTubeでオープニングテーマが使用されているPV第2弾を見たときに、ファンの方が好意的に反応してくださっていて。特に、海外の方からのコメントも多く、翻訳してみたら海外では原画展をやっていないのに「Rapport」を認知してくれている方が多くて「あのタツヤか!いいね!」と(笑)。それが純粋に嬉しかったです。このインタビューが公開される頃には「スカー」の最初からサビまでファンの皆さんに届いていると思うので、感想は全部リサーチします(笑)。むしろ思いの丈を全部僕にください、受け止めますので!
――「スカー」の情報が解禁される前はどんなお気持ちでしたか?

キタニ

僕と一部のスタッフしか知らない情報だったので、とにかく早く言いたかったです(笑)。「千年血戦篇」のアニメ化は僕の周りにいる『BLEACH』好きの間でも話題になっていたので、言いたい気持ちをぐっと抑え、口元をひくひくさせながら「アニメ楽しみだよねー」と他人事のように振る舞っていました(笑)。
――制作の際に印象に残っていることはありますか?

キタニ

僕の周りにいる『BLEACH』ファンや原画展で見かけたファンの顔が頭をよぎって「とにかく、その人たちを悲しませたくない」と思いながら制作しました。少し前の話なのですが、僕の周りの『BLEACH』ファンはキャラクターになりきってチャットをする「なりチャ」をやるぐらい『BLEACH』が大好きなので(笑)。ちなみにそのときは、僕は十刃のバラガンを担当していました。ビジュアルがカッコいいですし、喋り方に仰々しい特徴・雰囲気があって、十刃の中で一番好きなキャラクターです。あとは、歌詞を書いているときに「あのシーンだけ読み直そう」と思ってコミックスを開くのですが、「おもしれぇー」となって結局全部を読んでしまう。その結果、少し締切を過ぎてしまったことですね(笑)。
――『スカ―』はどういったテーマの楽曲でしょうか?

キタニ

制作するときに真っ先に思い浮かんだ原作のシーンは、一護と織姫がユーハバッハの待つ場所へ向かうところです。『BLEACH』に登場するあらゆるキャラクターは、誰かを護りながら自分もまた誰かに護られ支えられている。『BLEACH』はそういう構造で成り立っていると思うので、色々な登場人物にとっても、「スカー」がテーマ曲になってほしいという想いを込めて制作しました。一護だけでなく、“○番隊のあの人の曲”としても捉えることができる曲になっていると思います。
――「Rapport」「タナトフォビア」との共通点や違いは?

キタニ

「タナトフォビア」は『BLEACH 獄頤鳴鳴篇(「週刊少年ジャンプ」2021年36・37合併特大号に掲載)』をテーマにした曲ですが、「Rapport」と「スカー」は『BLEACH』全体を見渡した曲、総括した曲になっています。また、「Rapport」が流れたのは原画展のBGMだったのに対して、「スカー」は最終章「千年血戦篇」のオープニング曲。アニメの幕開けとして流れるので、曲としての機能・意味合いは異なります。「スカー」は一護が持っているヒロイックな部分や力強さ、オープニングテーマとしての疾走感をシンプルな形の音で再現しようと思いました。
  • 第1話スペシャルエンディングムービー「Rapport」
  • 「タナトフォビア」(『BLEACH 獄頤鳴鳴篇』をイメージした曲)

様々な角度から掘り下げても
底尽きない奥深さこそ『BLEACH』の魅力

――『BLEACH』との出会いをお聞かせください。

キタニ

僕が小学校低学年だった頃にアニメが放送されていて、周りの友達が全員観ていたので作品を知ったのはその頃です。ただ、そのときは漫画をしっかり読んでおらず……。というのも、当時の僕の世代にとって「週刊少年ジャンプ」を読むことは“少し大人な子ども”の印象があって。そうして読まずに大人になり、出会ったクリエイター、グラフィック系のクリエイターが、みんな『BLEACH』を好きで、話す度に「『BLEACH』を読んでないの!?ヤバいよ!」と(笑)。「漫画としての面白さはもちろんあるけど、それ以上にグラフィックのセンスが純粋に高いから」「王道の少年漫画に興味が持てなくても絶対に読んでおくべき」と言われたのをきっかけに原作を読み始めました。
――キタニタツヤさんが思う、好きなところはどこですか?

キタニ

全部分かりやすく描かれているわけではないので、読み込もうと思えばいくらでも“広がる”ところです。コミックスの最初のページにある巻頭歌には、どこまでも考察できる奥深さがありますし、キャラクターの心理描写に感情移入して掘り下げられる場面もたくさんあります。かと思えば、誰が読んでも楽しめる・カッコいいと思える戦闘シーンもあって、カジュアルに少年漫画として楽しめるところもあります。作品を読み込むレベルが選べるので、どの世代の人も楽しめるのが魅力ですよね。
――「千年血戦篇」の注目ポイントはどこですか?

キタニ

最終章なのに零番隊や星十字騎士団といった魅力的な新しいキャラクターがどんどん登場するところが個人的に嬉しくて、魅力だと思います。音楽において、最後のサビのあとに別の新しいメロディが流れたり、曲の終わりの部分であるアウトロがイントロと少し違ったり、最後の最後まで“広がりのある音楽”に出会うと嬉しい気持ちになるんです。それに近い感覚ですね。『BLEACH』全体の中で「千年血戦篇」は、音楽で例えるならば最後のサビからアウトロにかけての部分だと思います。そこで急展開が続いたら……すごく嬉しいですし、すごく盛り上がりますよね。個人的には、更木剣八と初代剣八が戦う“剣八戦”も楽しみで早く観てみたいところです。

メディアとして完璧な存在――
キタニタツヤが漫画を愛する理由

――「千年血戦篇」は滅却師と死神の“因縁”や“戦い”が描かれていますが、ご自身に起こった“因縁”や“戦い”はありますか?

キタニ

最近教習所に通い始めていて、そこの教習指導員が少し厳しい方で、その方と“戦って”います(笑)。
――お仕事する際にインプットするジャンルとして多いものは何ですか?

キタニ

漫画が多いです。漫画作品は映像作品と異なり自分のペースで楽しめるので、じっくり読みたいところは時間をかけて読めて、さっと読もうと思えば早く読めますよね。しかもセリフやモノローグとして文章があれば、当然絵もあって、コマの中にはオノマトペもあるので音を感じることもできる。必要なものはすべて揃っているので、漫画は完璧なメディアだと思います。だからジャンルを問わず漫画はよく読みますね。
――ご自身のルーティーンはありますか?

キタニ

意図的にルーティーンは作らないようにしています。ライブ中に決まった場所で決まったタイミングで、というのは作らないようにしていますし、曲を作るときも、何も思い浮かんでいない状態から作り始めたり、アイディアが浮かぶまではアコースティックギターを握り続けたり、やる気のスイッチがオンになるまでは何もせず、ずっと漫画を読んでみたり、とにかく決まった流れ・パターンを作らないようにしています。それは日々の生活の中でも同様です。起床時間などの生活習慣もバラバラなので、むしろランダム性を楽しみたいなと思っていますね。
――これからの放送に向けてファンの方々に向けてメッセージをお願いします。

キタニ

「スカー」は、今でも何度もリピートしてしまうぐらい気に入っている曲です。「千年血戦篇」のアニメ本編と同じように最初から最後まで気合いが入っていますし、アニメの幕開けにふさわしい曲にできたと自負しています。「スカー」の音楽を含めてアニメ「千年血戦篇」を最後まで楽しんでください。希望を言うと、アニメでは流れないラストも良いので、ぜひ多くの方に「スカー」をフルサイズで聴いてほしいです!
TVアニメ『BLEACH 千年血戦篇』オープニングテーマ『スカー』
11月23日(水)から発売開始(※先行配信は10月18日(火)から開始
キタニ:提出した3曲のうち1曲は「スカー」のCDのカップリングとして収録しています。そちらもテーマを想像しながら聴いてくれたら嬉しいです。