BLEACH 千年血戦篇

SPECIAL

音響監督 長崎行男インタビュー

連載中から熱中していた「千年血戦篇」
“総監修”・久保先生の印象

――10年ぶりにアニメ化される『BLEACH』に関わることが決まった時の感想をお聞かせください。

長崎氏(以下、長崎)

毎週「週刊少年ジャンプ」は購入していて漫画『BLEACH』の一読者でファンでした。
なので毎週読んでいた『BLEACH』という、「ジャンプ」の看板作品のアニメに音響監督として関われることがすごく光栄で嬉しく、それと同時に責任・プレッシャーも感じました。
以前、『ドラゴンボール改』で音響監督をさせていただきましたが、それは再編集版。
しかし「千年血戦篇」は新作であり続編ですから。
――久保先生とのやり取りの中で印象的なことはございますか?

長崎

初回収録はスタジオに直接来てくださり、それ以降はリモートで参加されています。
制作陣が何か迷ったことがあると、「こういう風にしたほうがいいのではないでしょうか」と細かくアドバイスをくださりますし、セリフも修正案を積極的に出してくださります。
また、「千年血戦篇」では新しい言葉が多く登場するので、久保先生の中のイントネーションはどのようなものなのかをすぐに訊けるので、非常に助かっていますね。
本当に“総監修”なんですよ。
こんなに深く携わられている原作者はこれまでそういないのではないかと思うぐらいに。
――直接お会いしての印象は?

長崎

すごくスタイリッシュな方ですよね。大好きで大ファンです。
制作が始まるときにご挨拶をさせていただき、ヒット祈願のお参りでも久し振りにお会いして、1話と2話の感想をお聞きして新たに“気合い”が入りました。
――久保先生は音楽の造詣が深く詳しいイメージがあります。

長崎

音に関しては「こうしてほしい」といったことは全然なくて、純粋に僕らが作ったものを楽しんでくださっていると思います。
ただ、音楽を交えた遊び心が原作には満載なので、制作側が遊びたくなるんです。
ぐっと堪えていますが(笑)。
例えば、兵主部が出て来るシーンには「ローリング・ストーンズ」の「pain it black」の曲をかけたいなとか、やりませんけどね(笑)。

森田さんの“野生の勘”と
鷺巣さんとの関わり方

――「千年血戦篇」の魅力、見所をお聞かせください。

長崎

一護はもちろんですが、脇を固めるキャラ、敵勢力のキャラも含めて登場キャラがすごく魅力的なところですね。
そしてそのキャラ同士の戦い、そのどれもが見せ場の連続でもあるので、“音響監督”の立場からは単調にならないように上手く“音”でサポートできればと思います。
また、皆さんの演技も魅力ですね。
役者さん同士の掛け合いの熱さ、“熱気”にはすごくしびれます。
「千年血戦篇」は、久保先生はもちろん、監督や役者の皆さんと色々とディスカッションしたり、逆に提示したものに提案してくれたりしてお芝居を組み立てているので、常に“熱気”に溢れています。
――制作中で起こった、印象に残っていること、印象に残っているキャストさんの演技がありましたらお聞かせください。

長崎

以前、一護役の森田くんのインタビューを読んだのですが、すごく的を射たことを言っていました。
「過去のアニメは今と比べると絵の情報量が少ないのでセリフに情報を込めていた」と。
「一方で、昨今のアニメは絵の情報量がすごく多いのでセリフから情報を削ぎ落としている」と。
僕が思うに確かにその通りなんです。
例えば、今のアニメで視聴者が受ける情報量が映像と音で100とすると、昔のアニメーションの映像は、おそらく30ぐらいの情報量なんですよね。
残りの70をセリフなどの演技で補っている。
今は映像の情報量が増えて、特に「千年血戦篇」はすごい情報量なので、多くの情報をセリフに乗せる必要性がないんです。
森田くんが言っていた「前シリーズと同じでは情報過多になってしまうので、今シリーズでは削ぎ落としている」、これはすごくいいバランスだと思います。
そこに敏感に気付ける森田くんはすごいですよね。
多分、“野生の勘”が働いて気が付いたんだと思うのですが(笑)。
――制作スタッフからのディレクションではなく?

長崎

制作陣から提案したわけではなくて、森田くんを含めた役者さんが自らディスカッションしてやっていることですね。
だから、山下くんや瀬戸さんたちの若いキャスト陣と『BLEACH』にずっと携わっているチームとで、すごくいいアンサンブルになっています。
お芝居は、突出した一人によって構成されるものがいいものではなく、全員で混ざったアンサンブルの良さが作品の良さになるので。
そういう面ではすごく上手くいっていると思います。
各論ではディスカッションはありますよ。
こんな過去があったので、今までは明るい雰囲気だけだったけどシリアス面を意識しましょう、トーンを落としましょう、というようなことは。
物語が完結しているからこそできることですね。
そういう意味でも、「千年血戦篇」は幸せなアニメ化だと思います。
――音響作業を通して難しかったところ、また、こだわった部分をお聞かせください。

長崎

前のシリーズから関わっている森田洋介さんが音響プロデューサーとして関わってくださっているので過去との整合性、効果音に関しても前から関わっている武藤晶子さんにお願いしているので心配はしていないです。
むしろ今回は鷺巣詩郎さんとのやり取りが面白いですね。
通常だと劇伴は最初に全て納品して、というのが主なのですが、「千年血戦篇」はすごく細かく、何話ごとにという感じで音楽を作ってくださります。
豪華な音楽なので一音一音際立つように効果音とセリフと音楽の“”に気を付けてやっています。
――鷺巣さんとのやり取りで印象に残っていることはありますか?

長崎

通常だと1期ごとに音楽メニューを作って、その出来上がりを待つのですが、あとから「こういう曲もあるのですが、どう思いますか」、「こういうのを作ってみたのですが」とか、今までとアプローチが異なります。
「一緒に作りましょう」と言うとおこがましいですが、2022年バージョンにリアレンジしてくださり、それにプラスして新たに生み出されたり、鷺巣さんの前向きな部分に乗っかりながらやっています。
あと、『BLEACH』はヨーロッパの国々にも人気が高いですよね。
鷺巣さんは結構海外のファンのこともを気にしていらっしゃって、フランスの『BLEACH』ファンの好きな曲ベスト10といったセットリストみたいなものをお持ちです。
――これまでの話数の中で、会心の出来というのは何話ですか?

長崎

1話目は手探りではありましたけどすごくいい出来だと思います。
なので会心の出来は1話目ですかね。
あとは、この先の展開の話になりますが、山本元柳斎重國とユーハバッハの戦いは会心の出来かなと思います。

ハリウッド映画から学ぶ
“音”の活用法

――ご自身のお仕事をする上で、インプットするものとして多いものは何ですか?

長崎

ハリウッド映画が多いですね。
月に二回は、ドルビーアトモスが備わった劇場に行って映画を観ます。
そして劇場で観た映画を今度はテレビで見て、音の差を聴き比べたりします。
例えば、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は劇場で観ると、爆発シーンのあと5分間ぐらい、耳が「キーーン」としたような音が入っているんです。
テレビで見るとそこまではっきりと聞こえるわけではないので、音を変えているのかなとか、そういうことを色々研究しています。
音響にも「トレンド」のようなものがあって、昔は、こういうことをしてはいけないとか、“約束事”や“しばり”がありました。
ですが、今のハリウッド映画には特にないんです。
――“約束事”や“しばり”とは具体的には?

長崎

映像も比率が変化して大きくなったように、音もステレオ、モノラル、5.1ch、ドルビーアトモスと変化しています。
昔は、聴く人の後ろから音を出してはいけないという言い伝えみたいなものがありました。
なぜなら、人間は前方で映像を見ていて、後ろから不要な音が来ると意識が後ろに引っ張られてしまうからです。
すると、前方の画面を見る目が“おろそか”になってしまう。
でも、今は後ろからバンバン音を出すじゃないですか。
もう、後ろからは音を出さないとか、そんなことを気にせず、ある意味で、映画はアトラクション化していますね。
昔、中国の映画監督さんは仕上げに日本のスタジオに来ていたんです。
日本のそのスタジオには著名な録音技師の方がいて、そこで仕上げをしていた。
ですが、ある時期から来なくなってオーストラリアに行くようになった。
それはオーストラリアのほうが進歩しているからです。
でも、昔ながらの日本の音響の教え・良さを守りつつも、今のハリウッドの技術を取り入れ、フレキシブルな自由さをアニメでもおこなっていきたいと思っています。
あと、視聴者の視聴形態が今は様々にありますよね。
最近のテレビは音がいいので、テレビを中心に据えて音をミックスしていますが、ヘッドフォンやイヤホンで聴いている人、さらにはスマホで見ている人も意識して作らないといけないなと思っています。
――「千年血戦篇」は滅却師と死神の“因縁”や“戦い”が描かれていますが、ご自身に起こった“因縁”や“戦い”はありますか?

長崎

昔から、僕の左半身、特に左手に“何かある”んです。取り憑いているような。
早急に解決しないといけない因縁ですね(笑)。
どうやって解決しましょう……麒麟寺の温泉で治してこようかな(笑)。
――ご自身のルーティーンはありますか?

長崎

家に帰ったら必ず韓国ドラマを見ています。
必ず2時間、2話分を見ることにしています。
息抜きとしては、さきほどの映画を観る、それから読書をする、そういったこともありますが、それらは全部仕事に繋がってしまうので。
――3話、4話と続きが気になることはないですか?

長崎

そこまでの体力はありません(笑)。
「見ながら寝てるよ」と妻に言われることもあります。
恋愛要素が入ってくるとちょっと眠くなるので、なるべくスリリングなドラマを見るようにしていますね。
――まだまだ放送を控える「千年血戦篇」。ファンに一言をいただけましたら。

長崎

原作のスタイリッシュさ、カッコよさを踏襲しつつも、そこに音楽や声優さんの声、いわゆる原作にはない別の要素を加えることによってさらに世界感を広げて、見ている人の感情の琴線に触れるような作品作りを心掛けていきます。
僕自身が非常に楽しんでいるので、それと同じように皆さんも楽しんでいいただけるといいなと思います。
また、素晴らしい時間に放送しているので。
「月曜日がまた始まってしまった」と萎えているときに『BLEACH』を見て、今週も頑張ろうと思っていただけたら嬉しいですね。