BLEACH 千年血戦篇

SPECIAL

シリーズ構成 平松正樹インタビュー

“チーム”で作り上げるアニメ
そして総監修・久保帯人先生との関係

――10年ぶりにアニメ化される『BLEACH』に関わることが決まった時の感想をお聞かせください。

平松氏(以下、平松)

始まりは、田口監督からの数年ぶりの「シナリオの仕事を依頼したい」というメールでした。
迷わず「お請けします」と即答し、打合せをすることに。
行ってみ ると、そこにはstudioぴえろのプロデューサーの富永さんもいらっしゃって、田口監督からは「アニメ『BLEACH』です」と。
富永さんからは「やってもらえますか?」と(笑)。
最初に思ったのは「マジですか!?」でしたね。
『BLEACH』は「少年ジャンプ」を代表する世界的な超人気作品ですし、ジャンプ作品のアニメは、サッカーで言えばチャンピオンズリーグみたいなもので、自分とは縁がない世界だと思っていたので……。
思わず「僕でいいんですか?」と聞き返したのを覚えています。
僕にとっては『空の境界』以来、10年ぶりぐらいのアニメ作品ですし、『BLEACH』というビッグタイトルのシナリオを「僕に書かせることに対して制作陣に不安はないんですか?」と(笑)。
ただ、実際に制作に入って3本くらい決定稿ができた頃に、田口監督から「全体の何本ぐらい担当できそうですか」と訊かれた際には「残り全話」と答えました。
『BLEACH』のシナリオを書くことが楽しすぎて、絶対に他の人に譲りたくないと思っていたんです(笑)。
――シリーズ構成をする上で、久保帯人先生とお会いするタイミングはございますか?

平松

シナリオに関して大きな調整をする必要があったり、原作では明かされていない部分などの解釈について確認したいことがある場合などに、田口監督や富永さんと一緒に久保先生と直接お会いして、色々とお話を伺っています。
普段から、シナリオ作成時に不明なことや細かい相談事項は、集英社の担当の方を通して確認しているんですが、文面では伝わりにくい難しい話は、直接お話しさせていただくことで、より自分たちの理解度が深まると感じています。
毎回、めちゃくちゃ緊張しますけど(笑)。
――久保先生とのやり取りの中で印象に残っていることがあればお聞かせください。

平松

久保先生とのやり取りはどれも印象に残っているのですが、一例を挙げるならアニメの6話で追加した藍染のシーンですね。
原作では藍染は回想の1コマのみの登場ですが、「藍染vsユーハバッハの会話を見てみたいよね!」ということで新規追加することになりました。
本読みで何度も直して、藍染らしさを出せたかと思ったんですが……久保先生からの監修戻しでは全部書き直しになっていました。
その修正版を見たときに、田口監督も僕も本当に感動したと言いますか、「ああ、本物の藍染だ」と唸りましたね。
これ以外にも、「てにをは」レベルでの監修ひとつで“本物の『BLEACH』になる瞬間”が多々あり、難しいなぁと毎回感じています。
それと、もうひとつ印象に残っているというか、嬉しかったのは、久保先生がご自身を含めアニメ制作スタッフを“チーム”と表現してくれたことです。
久保先生は総監修の立場ですが、トップダウンの関係性はありません。
シナリオ作成の過程においては、まずは僕たちアニメ制作スタッフが、調整や新規アイデアを含めた一本のシナリオを作ります。
それを久保先生に監修していただく際に、変更・調整・追加などの意図や狙いを補足資料にまとめて添付し、チェックをしていただいています。
久保先生からは、「これは原作のままがいい」「こうしたほうが面白いんじゃないかな」「これはアリ、ナシ」などと、明確なジャッジをいただけるので、安心して僕たちもチャレンジができています。
総監修としてチームに久保先生がいてくださることは、本当に心強いです。
あとひとつ……これは本当に個人的なことですが、世界的にも有名な漫画家・久保帯人先生に名前を覚えていただけたことが単純に嬉しく、印象に残っています(笑)。

その魅力は唯一無二の
美しい言葉の数々――

――「千年血戦篇」の魅力、見所をお聞かせください。

平松

「千年血戦篇」は、“血”をキーワードに物語が進んでいきます。
一護や雨竜の、各々の親子関係をはじめ、一護の血に秘められた真実や、斬魄刀や斬月の秘密などが、次々繋がっていって「点」が「線」へと変わっていくところが本当に面白いですよね。
その一方で、一護は“血”の繋がりをこえた“心”の繋がりを貫いていくところが、一護らしくて大好きです。
血も種族も関係なく、みんなを護り、仲間になっていくところが気持ちいいですよね。
これは、視聴者や読者の皆さんと同じ、いちファンとしての感想です。
一歩引いて“仕事”として向き合って感じる『BLEACH』の魅力は、言葉やセリフの美しさ・繊細さです。
ロイド・ロイドのように久保先生の言葉を再現すべくシナリオを書くのですが、とても難しい。
久保先生からの監修戻しの修正を見たときに「あー、こういうことだったかぁ」と本物に触れられた喜びを感じることがとても多いです。
本来は“悔しい”とか、反省といった気持ちが芽生えないといけないのかもしれませんが……(笑)。
絶対に真似のできない言葉やセリフの美しさは、それだけで大きな魅力だと思います。
久保先生の言葉は唯一無二ですね。
――「千年血戦篇」の中で、一番好きなシーンをお聞かせください。

平松

バトルで言うと、原作を読んでいて一番興奮したのは「剣八vsグレミィ」「マユリvsペルニダ」です。
この二人が絡む戦いはどれも面白いですよね。
常軌を逸したキャラクターが好きなんです。
シナリオはロジカルに組むので理屈っぽくなりがちなんですが、剣八やマユリは「知ったことか」と平気で理屈を飛び越えていくじゃないですか。
そういうところが面白くて憧れるんですよ(笑)。ドラマの面では、現在・過去あわせて一心と竜弦のエピソードが好きです。
自分の年齢が今の一心たちに近いので、彼らの大人目線に共感しますし、過去篇を見ると、あの哀しみが今につながってるんだなと苦みを感じたりして……。
片桐叶絵さんが涙するシーンは、僕も心が張り裂けそうでした(笑)。
まだ発表になっていませんけど、声優さんの演技もすごくよかったので、皆さんも放送を見て、叶絵さんの魅力に気づいてほしいです。
――「千年血戦篇」のシナリオを作る上で、こだわった点や意識した点などがあればお聞かせください。

平松

漫画からアニメ映像への“翻訳”を意識しています。
週刊連載漫画のページ数での物語のリズムと、30分のアニメのリズムは異なるので、原作数話分をまとめてコピペしただけではアニメのシナリオにはならないんです。
それを、気持ちよくアニメを見られるように流れを調整したり、新規場面を足したりして、シナリオをまとめ上げる作業は“翻訳”に近いのかな、と。
それに加えて、映像ではセリフを“音”で聴くのが基本になるので、同音異義の言葉や、設定説明などの長いセリフなどは、直感的に理解しやすいように調整することがあります。
翻訳小説は、同じ作品でも訳によってはつまらない内容に感じてしまったり、読みにくい文章になってしまったりすることがあると思うんですが……今回は原作漫画が面白いことが前提なので、アニメのための“翻訳”は責任重大ですよね。
もうひとつこだわっているのは、「『BLEACH』らしさとは何か」を常に意識して、自分のクセや“色を抜く“ことです。
僕のオリジナル作品ではなく、“『BLEACH』のアニメのシナリオ”を求められているのだから、僕のクセや色がノイズになってしまうし、実際、本読みの場で指摘されるのは、そういう部分が多いです。
だからといって、オリジナルシーンを久保先生に「考えてください」と丸投げするのは失礼極まりないですし、まずは自分で考え、全力を投じたものを書いて提出しています。
それが原作もののシナリオを担う者の誠意だと思うので。
たとえ全リテイクになったとしても、意図が伝わり、その方向性が良いとなれば、久保先生自ら新しいアイデアや修正案を返してくださったりするので、そこを引き出せるようなシナリオを目指しています。
そういう意味では、僕が向き合っているのは「2人の久保先生」だと思っているんです。
1人は、「週刊少年ジャンプ」で戦っていた“連載当時の久保先生”。
ジャンプという世界一厳しい現場で、絵もキャラも台詞も物語も自分ひとりですべてを生み出して漫画を描き続けなきゃならないなんて……想像を絶する大変さで、孤独な作業だと思うんですよね。
本当なら一字一句変えられたくないと思うのが当然で、原作を読めば読むほど「原作のままが良いのでは?」と思えてしまう。
そこで、今度はもう1人の“今の久保先生”に向き合います。
連載終了から数年が経って、久保先生ご自身も当時より俯瞰して『BLEACH』を見渡すことができるでしょうし、チームとして一緒に作っているからこそ、アニメの事情や文法も理解してくださる。
連載当時の久保先生の思いや情熱をシナリオに引き継ぎながら、今の久保先生に「面白いね」「よくわかってるね」と言ってもらえるような、調整・変更や新規シーンを考える、という感じです。
シナリオを書く作業中は僕も孤独ですが、監督やスタッフに相談もできますし、頼もしい集英社の担当さんのアドバイスもいただけますし、最後には久保先生に監修していただけます。
だからこそ、ひとりで『BLEACH』を描き上げた久保先生を心からリスペクトしていますし、読むたびに抱く感動を絶対に忘れず、シナリオを書き続けたいと思っています。

「シリーズ構成」の“因縁”
実現したからこその展開!

――「千年血戦篇」は滅却師と死神の“因縁”や“戦い”が描かれていますが、ご自身に起こった“因縁”や“戦い”はありますか?

平松

「シリーズ構成」の肩書が“因縁”です。
実はずっと前に「シリーズ構成」の肩書を得るチャンスがあったんです。
そのときは途中で担当変更があり、降板しまして「シリーズ構成」を担当できず。
それからしばらくして、田口監督と一緒に企画から作っていた作品があったんですが、そのアニメは諸般の事情で実現できず、「田口さんと仕事はできなくなったし、シリーズ構成は一生なれないかもな」と凹みまくりました。
その数年後に「千年血戦篇」でシリーズ構成になれるなんて! 三度目の正直と言いますか、「シリーズ構成」には“因縁”を感じましたね。
――お仕事する際にインプットするジャンルとして多いものは何ですか?

平松

いろいろな映画やドラマを観たり、漫画や小説を読んだり、音楽ライブやサッカー観戦に行ったりしますが、特にノンフィクション系の番組を観ることが多いです。
ノンフィクション系の番組を見ると、その道の人しか使わない言葉、何気ない瞬間に自然と飛び出す意外と知らない言葉があるんですよね。
それって、アタマの中で考えるだけでは出てこない“生きた言葉”だから、それだけでキャラクターや物語が生まれたりすることもあります。
それは普段の人との会話も同じで、面白い言い回しや言葉は、こっそりメモしています。
「僕に話した以上その台詞、著作権ないからね」と勝手に思って(笑)。
ほかには、雑談や打ち合わせの場で他の人が「面白い」と思っているものはなるべく観たり・読んだりするようにしています。
一緒に作品を作る上で“共有できるもの”、言語化できなくても”感覚が分かる”ことは大事だと思うので。
――ご自身のルーティーンはありますか?

平松

毎日必ず朝にコーヒーを淹れることですかね。
それと、シナリオを書く時はその作品の音楽を聴くことかな。
『BLEACH』であれば、今はオープニングテーマの「スカ―」で気持ちを上げて行きます。
「あぁ、何度も折れたよな」と苦味がこみ上げるときもありますが(笑)。
あと、studioぴえろで打ち合わせをするときは、途中に小さなお社があるのでそこでお参りをします。
「今日もいい仕事になりますように」と。
――まだまだ放送控える「千年血戦篇」。どのクールでも構いません。平松さんしか知らない/オススメする“楽しみにしてほしいこと”をお聞かせください。

平松

どこもオススメなんですが、第2クールは終盤にかけてかなり盛り上がると思います。
原作の「行間」に何があったのかとか、原作ファンの方も驚くような見どころ満載になるかな、と。
詳しく言えないのが心苦しいんですが、放送を楽しみにしてもらえると嬉しいです。
それから、モブキャラや群衆のガヤも注目してもらえたら嬉しいです。
ある日の収録で、音響監督の長崎行男さんが「モブが世界観を作る。
だからモブは本編以上に丁寧に作るんだよ」とおっしゃったんです。
ガヤガヤしていてセリフが聞こえない場合もありますが、作品世界を意識した演技やセリフが重なることで、“いい空気”が作られていくんだと。
だから、モブキャラのセリフもしっかり考えて作り込んでいます。
ちなみに……ある日の収録で、僕たちスタッフがモブとしてアフレコに参加した話数があります。
だから、僕も護廷十三隊の一員ですね。
第1クールのどこかに登場するのでお楽しみに(笑)。
――最後に、これからの放送に向けてファンの方々に向けてメッセージをお願いします。

平松

久保先生をはじめ、田口監督やアニメ制作スタッフみんなが“チーム”となって、「千年血戦篇」を作っています。
アニメオリジナル場面や要素も追加されたりしますが、目指しているのは、どこまでも“『BLEACH』のアニメ”です。
原作の空気をそのままに、見終えた人が「シナリオは原作のコピペだね」と言ってもらえたら、シナリオ担当として最高です。
それでいて、コアな原作ファンの方も、アニメから入った方も、次が楽しみになるような仕掛けやサプライズがたくさんありますので、毎週の放送も、2クール目以降も楽しみにしてもらえたらと思います。