キャラクターデザイン 工藤昌史×色彩設計 合田沙織 対談
久保先生からの信頼
『BLEACH』への羨望
――
工藤さん(以下、工藤)
「死神代行消失篇」のアニメを終えて、「千年血戦篇はいずれやるであろう」と思っていましたが、どのタイミングかは僕も知らなかったです。10年ぶりのアニメですし途中で替わったスタッフもいますし、そんな中で引き続きキャラクターデザインのオファーをいただきましたので、自分の出来る限りやりたいなと思いました。
オファーをいただいたときには、「監督は田口監督」と決まっていました。
ちょうど『アクダマドライブ』に1回原画で参加したときで、田口監督とは「どういう感じになるかな」と思っていたところ、プロデューサーからは「絵で会話してください」と言われました(笑)。
合田さん(以下、合田)
武闘派(笑)。工藤
1回ご一緒したことで「なるほど。田口監督はこういう感じか」とつかみつつ、どういう進め方になるのか「わからない」状態でした。今までのシリーズでやっていたことが、今回の「千年血戦篇」で通用するのかしないのか、もありますし。
合田
私は『アクダマドライブ』の打ち合わせのときに、田口くんから「『BLEACH』をやるかもしれない」という話を聞いて、「ビッグタイトル!やればいいじゃん!」と。そうしたら私も入っていて(笑)。
昔から原作を読んでいたこともあって、嬉しかったですね。
――『BLEACH 千年血戦篇』制作中で起こった、印象に残っていることがありましたらお聞かせください。
工藤
一護を「千年血戦篇」用にリニューアルしまして、出来上がりを久保先生に監修いただいたところ、久保先生からLINEで直接連絡をいただいてびっくりしましたね。「キャラクターを理解していただいていて、ありがたいです」というような内容の、大変嬉しいお言葉をいただきました。
合田
つい最近の話ですが、オールラッシュで確認をした際に、ハッシュヴァルトのまつ毛が間違ってブラックで塗られていたんです。その絵がめちゃくちゃ『ベルサイユのばら』のような仕上がりになっていて、「まつ毛の色ひとつでこんなに違うのか」、「目力がすごいな」と(笑)。
工藤
まつ毛の毛量が多いですよね。合田
そう、毛量が多いんですよ。黒くするとより厚みが出て。
「本番で流れなくて良かった」と(笑)。
でも一方で、「こんなに多いんだぞ、みんなに見せたいな」という気持ちもあります(笑)。
――制作中は、久保先生とは別に田口監督のご意見もあったかと思いますが、その中で印象的なことがあればお聞かせください。
工藤
「千年血戦篇」をどのように展開していくか、をディスカッションしたときに『アクダマドライブ』で行った意図・考え方、影の付け方、ハイライトの入れ方とかはすごく多かったと思います。例えば反射光を付ける際、描く過程でひとつ手数が増して情報量も増えるので、その分、実線の量を減らしたり。
また、前から思っていたのですが、死神の着る死覇装は黒いので、黒でディテール線を描いてもあまり目につかない。
であれば、無しにしてみようと。
これは、久保先生のカラーイラストの描き方に寄せています。
久保先生は黒でベタ塗りしてハイライト部分は白で描いているので。
そのようにアニメでも、黒の部分を影色にしてディテールではなくて“塊”で表現する。
だから実線の量は減っているのですが、影や色トレースの量は増えていると思います。
合田
確かに。工藤
それが『アクダマドライブ』を経ての田口監督のディレクションのひとつで、「千年血戦篇」でリニューアルしたところですね。それ以外ですと、久保先生の別作品原作のアニメでは、影面が少なくて髪の毛に影が入っていなかったりするんです。
もちろん、演出によって髪の毛に影が入る、ハイライトが入るというのはありますが、設定では髪の毛に影を入れない。
その表現を久保先生が気に入っているというお話を聞いたので、通常状態のときには髪の毛に影を入れないようにしました。
それを基本にして、演出上でフレキシブルに影を入れる入れない、を選択しています。
合田
私は特に言われたことはないですね。パッと見て『BLEACH』だと分かるように、そこからはズレないように気を付けています。
色は完全に一から作り直しているので、結果、前シリーズと印象はだいぶ変わったと思いますね。
前シリーズのアニメ『BLEACH』に寄せる、というよりは久保先生のカラーイラストに寄せるイメージです。
工藤
彩度が低いシーンも多いですし、だいぶ前シリーズとの印象は違っていると思いますね。前シリーズは夕方のアニメでしたが、「千年血戦篇」は深夜の放送なので必然的に色使いは変わってきますよね。
それに「千年血戦篇」はキャラクターがどんどん討たれていくハードな展開が多いので、色彩は今のほうがすごく合っていると思います。
合田
そうですね。あとは、物語の天候の影響もあると思います。
前シリーズの瀞霊廷はカラッと晴れた天候でした。
でも「千年血戦篇」は曇るし雨は降るし、夜にもなるし。
シビアでハードな展開が続くので、キャラクターのテンションや心象に合わせてシビアな色使いを心掛け、色の面からも重たくしています。
暗くなって見にくくなっていたらごめんなさい(笑)。
――映像技術、表現処理能力等、日々進化している中で、「千年血戦篇」で新たに取り入れたもの、取り入れた考え方などがございましたらお聞かせください。
工藤
「千年血戦篇」のために、ではありませんが、デジタルで描いています。前シリーズは紙で描いていましたが、デジタルで描く環境にしました。
デジタルに変えて変化したのは道具が変わっただけですね。
自分は素材を作る、設計図を作る工程なので、デジタルとアナログの違い・影響はそんなにないのかなと思います。
合田
私も「千年血戦篇」用に何かを用意した、取り入れた、はないです。工藤
カラースクリプトは『アクダマドライブ』からですか?合田
カラースクリプトを本格的に使うようになったのは『アクダマドライブ』の途中からでした。田口くんが味をしめて「いいぞいいぞ」と(笑)。
工藤
そのときに田口監督が手応えを感じたんでしょうね。点と点が線になっていく最終章
悩ましきオススメポイント
――『BLEACH 千年血戦篇』の貴方が思う魅力、見所をお聞かせください。
工藤
全部が見所です。「千年血戦篇」はこれまでの物語が収束していく章なので、これまでに物語を紡いできたキャラクターたちが最終章でどうなるのか。
「あのキャラがこうなるの?」「この敵と戦うのはあのキャラ!?」であったり、これまで語られてこなかったキャラクターの深いところが語られたり、「だからこういうキャラクターだったのか」といった納得感を得られたり。
最後に相応しい章だと思いますし、熱い展開が続きますよね。
合田
護廷十三隊の死神がいて、星十字騎士団もたくさん登場する。なのに、死神も滅却師も全然個性が被らないのがすごいなと思います。
個人的には飄々としているナックルヴァールがすごく好きで、彼がこの先、似ている“あのキャラ”と戦う。
その展開の流れがすごくうまいなと思います。
工藤
そうですよね、キャラクター性は被らないけど、戦う者同士の共通点みたいなもの があって。合田
そうそう。工藤さんは誰の戦いが好きですか?工藤
アニメではこれからの展開のところになってしまうのですが、弓親と“あのキャラ”の戦いが好きです。――これまでの『BLEACH』、『BLEACH 千年血戦篇』どちらでも構いません。
制作したからこそのお気に入りシーン/カットを選ぶとしたら、どこになりますでしょうか。
その理由もお聞かせください。
制作したからこそのお気に入りシーン/カットを選ぶとしたら、どこになりますでしょうか。
その理由もお聞かせください。
合田
工藤さんは思い出が多いと思うので、私から(笑)。山本元柳斎重國が卍解するところですね。
色変えも相当激しく行いました。
私は海外の『BLEACH』ファンがアニメを観ているところを見るのが好きで、『残火の太刀』で刀身の炎がシュッと消えた瞬間、「わー」と喋っていたのに急に静まる。
「やった!この反応を待っていた!」と(笑)。
そのカットは、試行錯誤して苦労して作った甲斐があったと思いました。
あとこだわったのが、灼熱の中なのですが、炎で熱くなっているのではなく、砂漠の中というか、地面から大気そのものが暑い、そんな表現にしたかったことです。
すごくいい感じに出来たと思います。
工藤さんはいかがですか?
工藤
うーん。ひとつを選ぶのは難しいですね(笑)。
20年追い続ける“戦い”と
共通したルーティーン!?
――ご自身のお仕事をする上で、インプットするものとして多いものは何ですか?
工藤
邦画洋画問わず映画を観ることですね。ジャンルも問わず観ます。
好きな一作は強いて言うなら、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』です。
合田
私は博物館、美術館、動物園に行くことです。実際に目で見たいんです。
8話のラストに霊王のシーンがありますが、「宝石展」を見たときの琥珀がすごく印象的で「あのときのを参考に」と作りました。
色はアンバーの琥珀ではないので青系に修正しましたが。
そういうように、博物館とかで実際に目にして、自分の中の引き出しにたくさんしまっておく。
そして仕事になったときにそれらの引き出しから引っ張り出す、そのために引き出しを多く持つことに意味があると思っています。
あと動物園もいいんですよ。
単純に動物が可愛いっていうのもありますが(笑)。
工藤
動物園って、だいたい鳥類エリアが入り口の近くにあって、最初に見る鳥を一生懸命見過ぎて他のエリア、動物を見る時間がなくなりますよね(笑)。合田
分かります(笑)。猿がたくさんいるところを見て一日が終わっちゃうみたいなのもあります(笑)。
――仕事において、ルーティーンなどはございますか?
工藤
ルーティーンはとにかくパソコンの電源を入れることです(笑)。他は特にはないと思います。
無意識にやっていることはあるのかもしれませんが、ぱっと思い付くのはないですね。
合田
私も特にはないですが、毎朝必ず豆から挽いたコーヒーを飲みます。そして必ずパソコンの電源を入れます(笑)。
――最近起きた/見た“因縁”、“戦い”があればお聞かせください。
合田
死神と滅却師のモブキャラの指定表を作り過ぎてしまったんです。それぞれ合わせて90体。色指定のスタッフさんからは「たくさんあって助かる」と言われますが、「よかったけど……」みたいな(笑)。
それを作ってしまった過去の自分との因縁ですね。
工藤
長い戦いで言えば、久保先生の絵を追いかけ続けて20年、久保先生はどんどん先を行かれます。全然待ってくれないし、立ち止まってもくれない。
久保先生の絵に似せるのが、本当にいつまで経っても難しいです。
――今だからお互いに訊きたいこと・伝えたいことはありますか?
工藤
劇場版アニメとかでは使われますが、TVシリーズでカラースクリプトを使うのはすごく大変なことです。合田さんのような才能と力のある人もいるんだなと驚かされますね。
合田
褒められてオロオロしちゃいます(笑)。工藤さんは、あれだけのキャラクターを作り出しているので、大変だろうな、半端ないなと常に思っています。
――まだまだ放送控える「千年血戦篇」。
ファンに一言をいただけましたら。
ファンに一言をいただけましたら。
工藤
これからどんどんハードな展開になっていって、哀しい未来が待っているキャラクターもいます。「●●ロス」という言葉もあるので、ファンの皆さんは気を強く持っていてください(笑)。
合田
次々に果てていく展開だと思いますが、美しい“死に様”を描きたいと思うので、ぜひ見届けてほしいなと思います。