BLEACH 千年血戦篇

SPECIAL

杉山紀彰(石田雨竜役)インタビュー

石田の感情を敢えて拾わない――
視聴者を物語に引き込む演じ方

――「訣別譚」の魅力や見どころを教えてください。

杉山紀彰(以下、杉山)

原作連載時から久保先生が構想していたキャラクターの設定やエピソードを余すことなく描いた『BLEACH』をお届けできるところが「訣別譚」、ひいては「千年血戦篇」全体の見どころの1つだと思います。
アニメでは数分で描けることも、漫画では数コマ、数ページ、数話分を使わないと描けないので、アイデアとして浮かんでいてもあえて描かなかった場面もあったかと思いますが、アニメではそういうシーンの数々が久保先生監修のもと追加されています。
アニメを見た後に原作を読み返すと、「漫画ではこのシーン描かれていなかった!」という場面を発見できるので、「本当はこんな場面も構想されていたんだな」と新たな魅力に気付けるかなと思います。
また、人数が多いにも関わらず護廷十三隊の一人ひとりにスポットが当たっているところも魅力的ですね。
それぞれの戦いがすごく丁寧に描かれているので、各キャラクターへの愛情を感じます。
――「千年血戦篇」では、「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」や零番隊といった新たなキャラクターが登場しますが、そのなかで好きなキャラクターを教えてください。

杉山

見えざる帝国」では、キルゲ(・オピー)が好きです。
原作の印象と山寺さん(キルゲ・オピー役)のお声があまりにも合致して「わかる~!これこれ!」と思いました(笑)。
神経質で高慢そうな一面を表現しつつ、物語の序盤から「見えざる帝国」の恐ろしさを知らしめるような存在感のあるお芝居がとても印象的でした。
零番隊のなかでは、兵主部(一兵衛)が好きですね。
一見、好好爺のような優しい人柄ですが、あるときには悪鬼のような雰囲気さえ漂う。
表情にものすごく大きな変化があるわけではなく、ましてや姿かたちが変わるわけではないのに、眼の光り方や表情、声などの微細なニュアンスの違いで別人にすら思えてしまう二面性が印象的です。
一護たちに見せるどっしりとした余裕が、敵を前にしてもそのまま表れている……、でも同じ余裕を持ちながらも少しのニュアンスの違いで底知れぬ怖さがあって、貫禄を感じましたね。
――「見えざる帝国」についた石田を演じるうえで、注意していることはありますか?

杉山

石田視点ではなく、他のキャラクターの視点に立った芝居をすることが多いですね。
石田なりに考えがあって「見えざる帝国」についたわけですが、石田の感情を考慮したトーンで演じると、含みのある芝居になってしまいます。
敢えて石田の心情を拾い過ぎず淡々と演じることで、皆さんにも一護たちと同じように「どうして石田が…⁉」という気持ちになっていただいて、先々に起こる展開を新鮮に楽しんでもらえたらいいなと思います。
――アニメオリジナルの場面と、原作で描写されている場面では、役作りの方法は異なるのでしょうか?

杉山

基本的には原作で描かれていない場面を収録する際は、その話数を担当された監督さんや構成作家さんが事前に原作の先生にニュアンスの確認をされてからアフレコに挑んでいますが、アフレコで発生した役者からの質問内容によっては、先生に確認するから収録を後回しにする、ということもあるんです。
ですが、「千年血戦篇」のアフレコは久保先生が毎回アフレコ現場にいらっしゃるので、演じる上での疑問点をすぐ訊けることがありがたいですね。
『BLEACH』の世界を作られた方が目の前にいらっしゃって、正解をその場でうかがうことができるので、安心してアフレコに臨むことができます。

初めは呼ばれなかった
二転三転のオーディション

――『BLEACH』との出会いを教えてください。

杉山

アニメに携わる前から『BLEACH』を読んでいました。
当時は、自分が石田を演じさせていただくことになるなんて思っていなかったです。
そもそも、僕は『BLEACH』の一次オーディションすら受けていないんですよ。
事務所のなかで各キャラクターのオーディションを受ける候補者が選出されたんですけど、当時新人だったので受かる確率も低いということで、先輩方が行かれたんです。
でも、一次オーディションですぐに一護役が決まらなかったらしく、若い少年役を演じられるほかの役者としてお声が掛かって、二次オーディションで一護役を受けさせていただきました。
自分なりに一護を演じたところ、「杉山くんが演じる一護はガラが悪すぎる」と言われて(笑)。
『BLEACH』冒頭で描かれている不良が一護にビビっている描写を踏まえて演じたので、「このくらいしないと不良はビビらないじゃないですか」と思ったんですけれども……(笑)。
結局、ガラが悪いver.と僕の素の声に近いver.の2パターンを録って、その日を終えました。
そして後日、素の声に近いほうの声が石田のイメージに近いとご連絡いただいて、石田のオーディションを受けることになり、ありがたいことに石田役を担当させていただくことになりました。
一護役の森田さんも当時は新人でしたが、僕も含めて若いからこそ出せる勢いや荒々しさがキャラクターにマッチしたのかなと個人的に思っています。
キャリアを重ねた今、若いキャラクターのオーディションを受けさせていただくと、「声のトーンは全然問題無いんですけど、喋り方に貫禄が出ちゃっているのでもう少しフレッシュにお願いします」と言われることがあります(笑)。
――『BLEACH』で印象に残っている用語や言葉を教えてください。

杉山

やはり「卍解」ですかね。
海外のアニメイベントで現地の皆さんが「バンッカイ!」と言っているのを見て、海を越えた地でもすごく浸透しているんだなと印象的でした。
「千年血戦篇」のアニメのアイキャッチで用語や技が、解説とともにドーンと出るじゃないですか。
それを見ると、ひとつひとつの単語のかっこよさに改めて気づかされます。
――「-訣別譚-」にちなんで、最近“訣別”したものはありますか?

杉山

過去に携わった作品の台本と訣別しました。
どの作品も思い入れがあるので一切処分せずに取っておいたんですけど、キャリアを重ねるにつれて尋常じゃない量になってきて……(笑)。
全部取っておくことが厳しくなってしまったので、名残惜しいですが少しずつ処分しています。
でも、『BLEACH』は一際思い入れが強いので、石田が初登場したエピソードも含めてすべて取っておいています。
――TVアニメをご覧の皆さまにメッセージをお願いします。

杉山

劇場版として公開しても遜色ないクオリティや久保先生もご監修されたアニメオリジナルパート、そのほか有り余る魅力が詰まっているので、先の展開を知っていても尚、新鮮な気持ちで楽しめる作品になっています。
久保先生や監督をはじめ、制作陣の皆さんも凄まじい労力と情熱をかけて作ってくださっているので、ぜひ視聴者の皆さんも一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
第3クール以降もこれらの魅力は続いていくかと思いますので、ぜひご期待ください。