BLEACH 千年血戦篇

SPECIAL

水槽インタビュー

エンディングテーマの在り方を模索し
雨竜に思いを馳せた楽曲制作

――エンディングテーマを担当すると発表されたときの、まわりの反響はいかがでしたか?

水槽

最初は『BLEACH』ファンのみなさんがどんな反応をするのか、不安でした。
「誰?」と言われるんじゃないかって(笑)。
ですが、すぐに海外のファンが「Welcome to BLEACH, bankai!」とリプ(返信)してくれたり、国内含めていろいろな場所で温かいコメントをたくさんもらえたりして安心しました。
――『BLEACH』のエンディングテーマを制作するにあたり、何が求められていると考えましたか?

水槽

まず勉強しました。
『BLEACH』の歴代エンディングテーマとオープニングテーマはもちろん、他のアニメ作品のエンディングテーマも出来る限り聴きました。
その上で、エンディングテーマには、オープニングテーマとは違うことが求められていると思いました。
オープニングテーマはアウトロのあとにアニメ本編が始まるので、“アウトロを含めてアニメのイントロ”という印象があります。
エンディングテーマはイントロがアニメと地続きになっているので、フェードインするようにつなげて、最後はアウトロで締め切らないといけない。歯切れの良さが求められていると考えました。
――楽曲制作には“テーマを決める”、“メロディを作る”、“歌詞を作る”などの色々な工程があると思いますが、普段はどういった順番で作っていますか?

水槽

たぶん自分のやり方は少し特殊で、“トラックを引く”、“ドラムビートを打ち込む”、“最低限の楽器を打ち込む”、“その場で歌いながら作詞作曲する”、“編曲仕上げ”という手順で作っています。
“テーマ決め”に関しては、今回はエンディングテーマのために8つのテーマを用意し、それぞれに合わせて計8曲作りました。
このうち、提出したのは8曲から絞った3曲。
雨竜を主人公にした3曲のうち、最終的に選んでいただけた『MONOCHROME』は、雨竜を主人公にしつつも“黒と白”がテーマでした。
じつは、一番選ばれないだろうなと思っていた曲だったんです(笑)。
――8曲それぞれ、まったく違うテーマで作ったのでしょうか?

水槽

そうです。
久保先生のレトリックを引用、サンプリングした曲もありました。
久保先生の“表現”は特徴的だと思っていて、言葉のひとつひとつがすごくお洒落ですよね。
自分とリンクする言葉も多いとも感じているので、それを散りばめてみた曲があったり、ほかにも雨竜から見た一護を描写した曲、提出した3曲のうちのひとつになりますが雨竜の決意をサビで歌う「相剋譚」っぽい曲、“夜に雨竜がひとりで考えていそうなこと”が主題の曲などがありました。
なので、制作中は雨竜のことばかり考えていましたね(笑)。
――8曲の制作中、原作のシーンが頭に思い浮かびましたか?

水槽

一護と雨竜の掛け合いのシーンもそうですが、巻頭歌や番外篇も好きで、よく浮かびます。
一番気に入っているのは、小島水色の「ハローハロー」から始まる番外篇の「a wonderful error」。
檜佐木が墓参りする番外篇「walk under two letters」も好きです。
あと、久保先生のファンクラブ『Klub Outside』でしか見られない会員限定の絵やコンテンツも参考になりました。
ファンクラブは本当に入ってよかったなと思います!
――『MONOCHROME』に絞ると、どんなシーンが思い浮かびましたか?

水槽

一護と雨竜の「なんでお前がそこに居るんだって訊いてんだよ!!」(コミックス65巻586話)のシーンです。
テーマ決めの段階で、このシーンが頭に浮かびました。
自分は一護よりは、一護と向かい合っている雨竜にすごく共感できるんです。
――『MONOCHROME』のテーマは“黒と白”ということでしたが、改めて詳しくお聞かせください。

水槽

タイトルは、死神と滅却師の服の色からきています。
曲の意味は、“ふたつのもの、真逆のものが対峙するとき”で、それらが“無理に混ざったり相容れようとせず、そのままふたつのものとして存在していく”という感じです。
“無理に混ざらない”というのが、主題として大きいですね。
――一護と雨竜、バズビーとハッシュヴァルトのようにでしょうか?

水槽

そうです! おもにその2組ですね。
――『MONOCHROME』制作中に苦労したことはありましたか?

水槽

2024年の4月クールで他のアニメ作品の主題歌を担当させて頂いたのですが、制作自体は『BLEACH』のほうが先だったんです。
アニメのタイアップ曲を作るのは初めての経験でしたし、最初の8曲を作るのが大変で、“アニメのために曲を書く”、“わかりやすいサビを書く”、“エンディングテーマのフォーマットに適した音楽を作る”などの留意事項が増えて、四苦八苦しました。
“アニメのエンディングは89秒”というルールも、それに合わせて曲のテンポを変えたり、余韻をアレンジしたり、慣れるまでは少し苦労しました。
4曲目くらいで行き詰まっちゃって、「1回自己流でやってみよう!」と思って作った曲が『MONOCHROME』でもあったんです。
――エンディング映像をご覧になって、いかがでしたか?

水槽

『BLEACH』のために作った曲なので、「『BLEACH』の映像と合わなかったらどうしよう」とずっと思っていたのですが、上手くハマって安心した、というのが一番大きいです。
実際は、アニメの制作スタッフさんが曲にフィットさせてくださっているのだと思いますが(笑)。
――サビ前の転調が、かっこいいですよね!

水槽

転調のところを映像ではどのように表現するのかが想像できなかったのですが、実際に見たら死神たちから滅却師たちに、という風に変化して、「この演出、すごくいい!」と思わず興奮しましたね(笑)。
この滅却師に転換するところで三拍子になる部分は、あまり聴いたことのない曲の展開だと思います。
じつはこの部分は制作しながら「ちょっと尖りすぎかも」とスタッフからもフィードバックでもらっていたんです。
でも、この転調があることでサビに向かって加速する演出ができるので、ここは残したかった。
結果、最終的にエンディングテーマとしてこの曲を選んでいただけたので、自分の勘はある程度信じてもいいんだなと思えました。
これは制作中の印象に残っていることでもありますね。
――『MONOCHROME』を含めてエンディングテーマ制作で初めてトライしたことはありますか?

水槽

まず、漫画からサンプリングしてくるという行為自体が初めてでした。
漫画から抽出したものをそのまま入れるのではなく、たとえば「月牙天衝」だったら、ラップのパートで「悔しい、悲しいたびに満ちる月」というリリックにしています。
月、特に“満月”は、一般的に吉兆や幸せなものの象徴だと思いますが、『BLEACH』では一護が厳しい修業の末に獲得し、戦いのなかで使われる技で、幸せの象徴だとは言い切れないと思ったんです。
その二律背反を「悔しい、悲しいと思うほどに月が満ちていく」という暗喩で表現したり、ルキアのセリフも、サンプリングとまではいきませんが織り込みました。
そういう作業は、すごく楽しかったです。
――『MONOCHROME』で、とくにこだわった部分はどこですか?

水槽

最近は、サブスク(定額制サービス)でアニメを視聴する方も多いと思います。
サブスクではエンディングに突入して3~5秒後には次の話が再生されるので、曲が流れてから3~5秒の間に歌が始まるようにイントロを短くして、かつ頭のメロディーがその後のどこにも出てこない構成にしました。
サビのように繰り返したりせず、最初の2行だけ全然違うことをやる。
さらに最後のラップでも全然違うことをやって、予測できない展開を聴いてもらおうと。
そこが一番こだわったところですね。
――最後のラップは、エンディングテーマということを意識して入れたのでしょうか?

水槽

その部分は、宇多田ヒカルさんの『One Last Kiss』の影響かなと思います。
『One Last Kiss』は最後に印象に残るメロディーが入っていて、「なんだろう?」と気になったんです。
ただ、これがあることで絶対にみんな最後まで聴くだろうなと思って。
“最後までギチギチにやりきる”、“最後まで走り抜ける”という着想は、そこから得たのかもしれません。

小学生時代から魅了された雨竜
読み返すほどに、何気ないシーンに惹かれる

――『BLEACH』との最初の出会いはいつでしたか?

水槽

小学生の頃です。
当時、クラスの中で一番漫画を持っている仲の良かった女の子がいて、その彼女に「私の一番好きな『BLEACH』を読みなさい!」と単行本を渡されました(笑)。
それまではアニメの影響でタイトルを知っているくらいの認識でした。
そして漫画を借りて読んだのですが、漢字が多く、それが当時の自分にはちょっと難しくて、途中で読むのを諦めちゃったんです。
その後、たぶん10年ぐらい経ってから改めてちゃんと読みました。
――当時の、水槽さんのお気に入りだったキャラクターは?

水槽

小学生の頃は記憶が朧気ですが、たぶん雨竜が好きだったのではないかなと思います。
基本的に、頭のいいキャラクターが好きなんです。
改めて読み直したときは、いわゆる“推し”とは少し違いますが、先ほど言った通り、一番感情移入できたのが雨竜でした。
――具体的には、どういったところがお気に入りですか?

水槽

“わきまえている”と感じたところでしょうか。
少年漫画の主要キャラクターで主人公の仲間側にいるのに、雨竜には諦観があるなと感じたんです。
だから「千年血戦篇」では、自分の立場をわきまえたうえで一護たちとは違う向こう側に身を置いた。
“自分にできる役割はこれしかない”みたいなものを理解して行動しているところが好きです。
――いわゆる“推しキャラ”で言うと誰ですか?

水槽

ハッシュヴァルトです。
めっちゃカッコいいですよね(笑)。
でも彼もわきまえているところがある気がしていて、“あくまで自分はユーハバッハの影”という立ち位置を理解しているように感じます。
そこは、雨竜と共通していると思います。
――キャラクターのセリフで、印象に残っているものはありますか?

水槽

ふいに出るセリフが、すごく刺さることが多いです。
一護の「俺以外の誰かにできたとしても 俺がやらずに逃げていい理由にはならねえんだよ!」(コミックス68巻618話)というような決めゼリフも好きですが、雨竜の「最期の言葉じゃあるまいし」(コミックス72巻661話)のような、さらっと出たセリフも印象に残っています。
――以前、オフィシャルコメントで「『相剋譚』には好きなエピソードが多い」と仰っていましたが、一護と雨竜以外に刺さったエピソードはありますか?

水槽

バズとユーゴーの幼少期からのエピソードです。
ふたりの人間がいて、もともとわかり合っていたのに、わかり合えなくなってしまうという展開の切なさが好きなんです。
――『BLEACH』を隅々まで読み直しながら楽曲を制作されたとのことですが、改めて気付いた『BLEACH』の魅力は何ですか?

水槽

読み返すたびに、何気ないシーンを好きになっていきます。
自分の経験値の地層が増えれば増えるほど、「ここは、こういう意味だったのか!」と、読み取れる階層が深くなっていく。
そういうものが戦闘以外のシーンにたくさんある作品だと、改めて魅了されています。
――サブタイトルの「相剋譚」にちなんで伺います。現在、ご自身の中で相剋していることはありますか?

水槽

いま『MONOCHROME』のCDに収録する楽曲を制作中で、他にもさまざまなお仕事の曲を書かせていただいています。
でも、自分は人と会ったり、遊んだり、映画を観たり、漫画を読んだりしないと曲を書けない。
そういった時間がリフレッシュであり、一番のインプットなんです。
“曲を書かなきゃいけない”。
でも“遊ばないと曲が書けない”。
睡眠時間を削るのは不健康だし……みたいなジレンマがありますね(笑)。
――最後に『BLEACH』を観ているファンにメッセージをお願いします。

水槽

冒頭でもお話ししたように、今回『BLEACH』ファンの方々から温かいコメントをたくさんいただいて、素敵なファンがたくさんいる作品なんだなと実感しました。
この作品に関わることができて、本当に良かったと改めて思いました。
自分も『BLEACH』ファンの一員なので、みんなで一緒に放送を楽しみましょう!