石川英郎(浮竹十四郎役)インタビュー
“明るさ”を隠し“責任感”も持って演じた
「千年血戦篇」の浮竹十四郎――
――石川さんが思う「千年血戦篇」の魅力を教えてください。
石川英郎(以下、石川)
久保先生が総監修をされているからこそ実現できた、原作を補完するアニメオリジナルの展開です。原作でも描かれていたシーンの裏で、キャラクターごとにそれぞれの物語が動いていたのだと思います。
特に『BLEACH』はキャラクターが多いじゃないですか。
ここまでキャラクターが多い中で“このキャラクターには、この物語がある”ということをアニメでしっかり表現していただけるのは、役をもらっている人間としてありがたいことだと思います。
「このように物語を膨らませるんだ」、「ここで深掘りしていくんだ」と色々なことが印象的でした。
――「相剋譚」では浮竹の秘密が明らかになりましたが、演じるうえで意識したことはありますか?
石川
尸魂界が危機に陥っている状況で、自分にできることを考えて最大限にやるという“責任感”です。浮竹はずっと病弱の身体で生きてきたので、“みんなと接するときは明るく”という気持ちを持って演じていました。
ですが「相剋譚」では、護廷十三隊の隊長としての“責任感”が浮竹を突き動かしていたのだと思うので、以前のような明るさ・朗らかさは全く出しませんでした。
この“責任感”という気持ちは、志波海燕が亡くなったときにあった浮竹の心情に近いものなのかな、と僕の中で思っています。
――みんなに明るく振る舞う浮竹と責任感を持った浮竹では、どちらの方が演じるのが難しかったですか?
石川
明るく朗らかな浮竹と、責任感を持って敵と戦う浮竹、どちらが難しいというのはないですね。どちらも演じていて楽しくて好きなので。
ただ、演じていて楽しいからこそ「千年血戦篇」では明るい浮竹を演じられなかったことが少し残念ではあります。
特にアニメ『BLEACH』のクラシックシリーズで放送されたアニメオリジナルエピソードでは、浮竹がよく登場していましたが、そのときは明るく朗らかな部分が前面に出ている印象だったので。
表現方法は少し違うかもしれませんが、僕の中では、小学校の体育の先生のような明るさ、朗らかさ、快活さのイメージ。
そんな浮竹も好きなので、また機会をいただけたら明るい浮竹も演じたいなと思いますね。
――「千年血戦篇」で新たに“責任感を持った浮竹”を演じるにあたって、ディレクションなどはありましたか?
石川
特になかったです。「千年血戦篇」が始まってから第29話放送前まで、浮竹は裏で活躍していることが多く、登場したシーンやセリフは多くはなかったので。そして、浮竹のメインの場面でも「こうしてください」というようなディレクションはあまりありませんでした。
なので、僕が思った通りの浮竹のままで演じることができたかなと思っています。
――浮竹と石川さんの共通点があれば教えてください。
石川
病弱なところですね、身体が強くなくて(笑)。アフレコの現場でも「すみません、今日鼻声なんですけど……」とか「すみません、今日喉の調子が……」と言って、何度制作陣に頭を下げたことか……。
もしかしたら “石川英郎=ちょっと身体が弱い”というイメージを持った制作の方もいるかもしれません(笑)。
台本を読んで再びショックを受けた
“先生”の最期……
――『BLEACH』、“浮竹十四郎”との出会いをお聞かせください。
石川
僕が浮竹十四郎として初めて参加させていただいたのが、「ジャンプフェスタ・アニメツアー」というイベントでした。アニメが放送される前で、特別版のOVAが上映されたのですが、そこに浮竹が登場したんです。
当時僕は、原作を単行本で読んでいたのですが、そのときはまだ単行本に浮竹は登場しておらず、僕は彼を知りませんでした。
そこで、一護役の森田成一と台本を見ながら“浮竹”って文字を指さして「この浮竹って何者だい?」と訊いたら「いやー…(原作には登場しない)オリジナルキャラじゃないですか?」と言われまして(笑)。
「えっ、そうなんだ」とその言葉を信じたんです。
そのままオリジナルキャラだと思い込んでアフレコ現場に行ったら、久保先生がいらっしゃって。
そこで久保先生とお話していたら、浮竹は全然オリジナルキャラではないし、護廷十三隊の隊長だし(笑)。
今も覚えているエピソードですね(笑)。
――『BLEACH』のセリフで惹かれたものを教えてください。
石川
それをいいますか(笑)。今の護廷十三隊の隊長で卍解していないのは浮竹だけなんですよ!
なので、一度でもいいから「卍解」って言いたかった(笑)。
アフレコでも、アニメを観ても色々な人の「卍解」を聞いているんですよ。
森田に至っては、何度「卍解!」を聞かされたことか(笑)。
本当にうらやましかったです。
それと記憶に残るセリフを挙げるなら、志波海燕が亡くなるときに浮竹がルキアに語った「戦いには二つあり 我々は戦いの中に身を置く限り 常に それを見極め続けなければならない 命を守るための戦いと 誇りを…守るための戦いと…!」(コミックス16巻135話)というセリフ。
僕の中でこのセリフは、浮竹十四郎というキャラクターを表す重要なセリフだと思っていて、浮竹が一番大事にしていることなんだなと思っています。
一番聞かせたい人間に聞かせられたという意味で、「相剋譚」の第29話でもこのセリフがあったことがものすごく嬉しかったですね。
――「卍解」を言えなかった、とお答えいただきましたが、石川さんが思う卍解の言い方があれば教えてください。
石川
もし演じるなら……と今考えると、「ここぞ!」という思いで心の中から出る気合の入った声をイメージします。声を大きく出すようなことはしないとは思いますが、病弱を隠して戦いの場に行くわけですから、敢えて張り気味になるのかなと想像します。
――『BLEACH』で好きなキャラクターを教えてください。
石川
浮竹と言いたいところですが、僕は山じい、“元柳斎先生”が一番好きなんです。護廷十三隊の総隊長として“自らを犠牲にしてでも、すべてを護るために戦う男”というところがかっこよくて。
ずっと浮竹と京楽でコンビを組んでいますけど、山じいはその上にいる御仁ですから。
2人とも山じいの“信念を貫き通す”というその背中を追いかけていて、師匠みたいな存在。
浮竹もずっと、ものすごく尊敬していたと思います。
――第1クールでは山本元柳斎が亡くなってしまう展開がありましたが、そのシーンをご覧になったときはどういうお気持ちでしたか?
石川
もう、ショックでしたね。原作を読んでいたので展開は知っていたのですが、改めて観ても大変ショックを受けました。
――浮竹十四郎というキャラクターを一言で表すとするなら、何と表現しますか?
石川
一言で言い表すのが難しいキャラクターでもありますが、登場してからこれまでの浮竹を振り返って僕が思うのは「対(つい)」です。「対」というのは、斬魄刀『双魚理』にも当てはまりますし、京楽との関係性も「対」になるのかなと思っています。
隊長として浮竹には浮竹の強さ、京楽には京楽の強さがありますが、2人が協力したときにそれぞれの力に加えて更なる力を生み出すことができると思うんです。
もしもの話ですが、浮竹が病弱でなかったとしたら、山じい亡きあとの総隊長は京楽と浮竹の2人で支え合って担ったのではないかと想像してしまう。
それくらいに2人の関係は運命のような特別な関係だと思います。
それと個人的に、『双魚理』と京楽の斬魄刀『花天狂骨』が並んだ、二刀一対の原作の絵がすごくかっこよくて好きです!
――サブタイトルの「相剋譚」にちなんで伺います。現在、ご自身の中で相剋していることはありますか?
石川
僕は、全ての愛情を注ぎたいというぐらいに猫が大好きなんです。それは街中で見かける猫も、猫カフェとかにいる猫も分け隔てなく。
ただ、猫には猫の気持ちがあって、それを人間は感じ取ることができないじゃないですか。
だから、可愛いなと思って手を近づけてみたら、ガブッと噛まれて出血してしまった経験も(笑)。
でも、そういう痛い思いをした経験があっても猫は可愛いくて、また懲りずに手を近づけてしまう。
普通は傷つけられると嫌な気持ちになって避けると思うのですが、猫だけは好きだからこそ傷つけられても許せるという気持ちがあって。
そんなときは、「今は近づいて欲しくないタイミングだったんだ」と思えるんです。
だから猫に噛まれたときに「僕が悪かった」と自省する気持ちと、猫の可愛いさに負けて近づいちゃう気持ちが相剋しているのかな(笑)。
――最後に、アニメ公式サイトを訪れたファンに一言お願いします。
石川
約20年前からアフレコを担当させていただいた作品が、10年振りにアニメ「千年血戦篇」となって再開しました。原作が完結している中でアニメ『BLEACH』が最後まで描かれるのは、ファンの皆様の「アニメの完結を楽しみに待っている」、「最後までアニメで見たい」という強い想いがあったからこそだと思います。
そして、原作『BLEACH』を読破された方はご存知かと思いますが、これから波乱の物語が展開されますので、アニメ「千年血戦篇」も最後まで堪能していただけたらと思います。
そして、浮竹のことは決して忘れないでください。
いつかまた登場する……という気持ちでいますので(笑)。