速水奨(藍染惣右介役)インタビュー
じつは愛情深い“ツンデレ”キャラ!?
演じるのが難しかった“ツン”の藍染
――改めて藍染惣右介の魅力を一言で表現すると何ですか?
速水奨(以下、速水)
“ツンデレ”ですかね。これまでに一護と敵対して激しく戦ったのは、じつは藍染の愛情だと思っているんです。一護に何かを教えているような気がして。
だから、あの激しい藍染が“デレ”で、優しい藍染隊長のほうが逆に“ツン”なんじゃないかなと思います。
あと、群れないところも魅力ですね。人って群れずにいるのはなかなか難しくて、どこかに自分の居場所を作ったり、居やすい場所を探したりしがちだと思うんです。
ですが、それを一切しない藍染の孤高さと芯の強さから、“自分の理想を曲げずに生きている”という美しさを感じ、そこが藍染の魅力かなと思います。
――孤高の藍染を演じるにあたり、とくに意識されたポイントを教えてください。
速水
おそらく藍染は普通の人と感性が違うと思い、セリフを喋るときにあまり言葉を立てず、熱量を込めないことを意識しました。藍染の“強さ”は、ことさら何かを強調しなくても滲み出てくるものだと思うので、演じるときも低燃費というか、“わずかな炎で、圧倒的な意味を持たせた言葉を相手に伝える”というふうに演じています。
――シャウトをせずに熱量を伝えるのは、すごく難しいのかなと思うのですが。
速水
アニメが始まった20年前は、収録スタジオにキャストが集結して、ものすごい熱量だったんです。“声優アベンジャーズ”みたいなキャストたちが、ずらっと集まって喋っていいますから(笑)。
でも、藍染だけはちょっとクールで、そこには含まれない。
おそらく、そこでポジショニングを掴んだのだと思います。
なので、そのときの藍染をずっと同じクオリティで保つようにしています。
――役作りのために、あえてキャストの輪に入らなかった?
速水
休憩のときはもちろん入りましたよ(笑)。収録本番の臨み方として、ほかのキャストのみなさんが、持っている個性を100%発揮して演じているなかで、僕は逆に“個性を削ぐ”ということを考えてやっていた気がします。
――クラシックシリーズを含めて、これまでのアフレコで印象に残っているエピソードはありますか?
速水
「破面篇」の一護と藍染の決戦シーンの収録では、僕らのほかに、死神役のキャストが40人くらい集まっていたんです。狭いスタジオに全員は入り切れず、みんな僕と森田君が演じているのをうしろに立って見ていました。
まるで観客のようにみんなが見ているなかで演じたことは、いまもすごく印象に残っています。
――「千年血戦篇」のアフレコは、どんな様子ですか?
速水
以前のようにキャストが大集結することはありませんが、久保先生がずっとアフレコに立ち会ってくださっているので、僕らも緊張感があって、いい現場だと思います。――印象に残っているディレクションはありましたか?
速水
「千年血戦篇」の収録の前に、ゲームアプリの『BLEACH Brave Souls』の音声収録があったんです。そこで「もうちょっと若くやってほしい」と言われてしまって。僕のなかでは、藍染はわりと低音で喋っている印象だったのですが、最初の収録からもう17年も経っていましたからね。知らず知らず、自分のなかで藍染を少し大人にし過ぎてしまったのかと思い、アニメ「千年血戦篇」の収録が始まってからは、ちょっと声を若くしたんです。そうしたら、今度は最初の一声で「そんなに若くしなくていい」とディレクションが入ってしまって(笑)。結局、いまのところに落ち着きました。ほんのちょっとした匙加減で、印象って変わるんですよね。――藍染は“優しい隊長”から“最強の敵”に、姿・立ち位置を変えていきます。時間経過もあり、声のトーン調整なども必要で、演じるのは大変だと感じるのですが?
速水
藍染の変化は少しずつだったので、大変といえば大変でしたが、それほどでもなかったかなと思います。これが逆に、激しいキャラから静かなキャラに変化するとかだったら、もっと大変だったと思います。
むしろ、僕としては、最初は“優しい隊長”のほうが演じる肝というか、ポイントがちょっと難しかったんです。
敵になってからのほうが、演じる楽しみが増しましたね。
――“優しい隊長”を演じるのが難しかったのは、その時点で、のちに藍染が敵になることを知っていたからですか?
速水
収録時はのちの情報はまったく分からない状態だったので、ただただ“良き隊長”、“良き大人”、“良き指導者”という印象しかなかったです。最初に難しいと感じたのは、僕はそれまで優しいだけのキャラを演じたことがあまりなかったからです。
「どう捉えていいのか……」「このままでいいのかな?」という思いがありました。
――でも、全然このままじゃなかった。
速水
ちょっとほっとしました(笑)。“何を考えているのか、わからない藍染”になってからのほうが、演じやすかったですね
――ご自身も藍染に騙された印象ですね。
速水
そうなんです!僕も騙されましたし、読者の皆さんももちろん、共演者の方々もみんな騙されていました(笑)。
――逆に先の展開を知っていたら、演じるのは難しかったと思われますか?
速水
そうですね。たぶん知らなくてよかったと思います。――今回の「相剋譚」の収録で、これまでとちょっと違うふうに演じてみたポイントなどはありますか?
速水
先ほど申し上げた最初に声の年齢感を調整する以外は、それほど変えたところはないです。ただ、ずっと囚われの身で椅子に座っていますからね。
かつての藍染よりは冷静で、トーンが低めというか、“動と静”で言えば完全に“静”のイメージで演じました。
――藍染のセリフで、一番気に入っているものを教えてください。
速水
名言集ができそうなくらい、いいセリフはたくさんありますが、一番好きなのは詠唱なんです。「破道の九十『黒棺』」の詠唱(※編注)は、まるで詩のような、なんとも言えない独特なリズムがあります。
本番で初めて詠唱をマイクの前で喋ったとき、「これを唱えることができる自分は幸せだ!」と感じました。
個々の単語はちょっとブラックなイメージのものもありますが、トータルであの詠唱は、ひとつの芸術作品のような完成度だと思います。
※編注:滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ 「破道の九十『黒棺』」
海外のファンによくリクエストされる
藍染惣右介の幻の“卍解”!?
――初めて『BLEACH』を読んだときの印象をお聞かせください。
速水
死神や滅却師という存在がいて、リアルな人間社会とは少し違う世界。けれど、序盤はそれほど大きな事件もなく、一護のまわりには学園ドラマがありました。
コミカルで楽しいシーンもありましたし。そういう漫画なのかなと思って読み進めたら、どんどん物語が変化していって、藍染が殺されてしまって……。
当時、僕は本当に“優しい隊長”の藍染しか知らなかったので、演じていた自分としては、ただただその激流のなかで「あ、変わっていくんだ」と感じていたのを覚えています。
――作品全体を通して、好きなエピソードや、心打たれたシーンを教えてください。
速水
「過去篇」の、護廷十三隊の隊士たちが死覇装を残して消えていくシーン、マユリの研究室でのやり取りのシーンなど、戦闘中よりも、あのような“これから物語が動き出すんじゃないか?”と期待させられるシーンが好きです。あと、残酷だけど、雛森くんを刺してしまうエピソードも象徴的だと思いますし、「相剋譚」の31話の藍染は、ちょっとすごいなと驚きました。“椅子に座っていても強い!”というね(笑)。
――『BLEACH』で一番気に入っているキャラクターと、その理由を教えてください。
速水
市丸ギンですね。彼はある意味、『BLEACH』のなかで一番男らしいと思っています。ずっと藍染の側にいて、復讐する機会を伺っていたわけですから。
そういうギンの息の潜め方や、信念を貫く強さが好きですね。
――ご自身に似ているところがあると感じますか?
速水
そんなふうになれたらいいんですけどね(笑)。ただ、“何かを貫きたい”という気持ちはいつも抱いています。
どこか“在りたい自分”というふうに捉えているのかもしれません。
――さきほど藍染の詠唱が好きと仰っていましたが、他のキャラクターのセリフで心惹かれたものはありますか?
速水
僕は単純に、各キャラクターの「卍解」という言葉がすごいと思っています。それで究極の奥義を出せるわけですから、憧れですね。
僕も何かに行き詰まったときに卍解を使えたらいいのにと思います(笑)。
以前、仕事で中東に行ったときに、現地のファンの方々が「卍解が好きなんだ!」と熱く語ってくれて、「すごくわかる!」と共感したのを覚えています。
――卍解の漢字も、海外のファンには特別な魅力があるようですね。
速水
海外のファンの方にサインをするとき、よく漢字で「“卍解”と書いてくれ!」と頼まれるんです。「藍染は卍解していないんだけどな……」と心のなかで思いながら書いています(笑)。
――「相剋譚」にちなんで伺います。現在、ご自身のなかで相剋していることはありますか?
速水
僕は猫が好きで一緒に何十年も暮らしていたのですが、5~6年前に最後の猫を看取ってから、もう二度と一緒に暮らさないと決めたんです。最後の別れが本当に辛くて。
でもペットショップの前を通ると、どうしても猫に目がいってしまうんですよね。
すかさず店員さんが「抱っこしますか?」と声をかけてくるのですが、一度抱っこしてしまったら、絶対に迎え入れてしまうだろうな……。
もうずっと、それが相剋です(笑)。
――相剋を感じたとき、その気持ちをどうやって乗り越えようと考えますか?
速水
猫のことに限らず、これからもいろいろな相剋があると思います。僕の仕事に関して言えば、たとえば年齢的な理由で、これまで出来ていたことが出来なくなることもあるかもしれない。
“それをどう乗り越えていくのか?”と考えたとき、やっぱり肉体や精神を含め、いろいろなものとの調和を考えながら“表現する”ということを続けていくしかないだろうなと思います。
相剋というほどの悩みではないですけど、常にプラスとマイナスの間にずっといる感じですかね。
――無理にプラスマイナスのどちらかに寄せるのではなく、在るがまま自然体でいるというイメージでしょうか?
速水
そうですね。それを、少しでも高いところに持っていけるようにしたいな、と思っています。
――最後に、アニメ公式サイトを訪れたファンに一言お願いします。
速水
20年という長きに渡り『BLEACH』を応援して愛してくださって、本当にありがとうございます。「千年血戦篇」もいよいよ佳境に入ります。
これからも目を離さず、ぜひ『BLEACH』を応援してください。よろしくお願いします。