BLEACH 千年血戦篇

SPECIAL

シリーズ構成 平松正樹 インタビュー

アニメオリジナルの解像度を上げる
久保先生の貴重なイメージネーム!!

――「相剋譚」はシリーズ全体でどのような位置付けになりますか?

平松正樹(以下、平松)

起承転結で言うところの“転”です。
これまで対立していた関係性に区切りがついたり、対立していた理由が明かされたりして、「相剋」というジレンマが解消されるのが第3クールです。
また、「千年血戦篇」シリーズ最後の第4クールへ向けた山場の一つで、最終決戦を前にした非常に盛り上がるクールだと思います。
――第1クール、第2クールを経て、久保先生との関係で変化したことをお聞かせください。

平松

第1クールのときは、久保先生は初めて参加する僕に対して若干の不安を抱かれているかもしれないと思ったので、“『BLEACH』のシリーズ構成として、先生から信頼していただけるように”ということを意識してシナリオを書いていました。
そこから少しずつ「このセリフいいね」などのお声をいただけるようになって、「信頼していただけているかも」と実感する機会が増えました。
現在は“信頼を裏切らないように、期待に応えられるように”という気持ちで書いています。
――反対に、変わっていないところはありますか?

平松

シナリオを含めて、現場でのやり方・進め方は第1クールから変わっていません。
アニメで追加されたシーンに対して「解釈が合っているか」や「この技の絵はどうするのか」など、久保先生に確認いただいたほうがよいと思うところは変わらず確認していただいています。
特に第29話。原作では、浮竹が技術開発局の台座で「神掛」を行い、色々あって退場した後、同じ場所で浦原が門を創りますが、アニメではマユリが別途用意していた大型の台座を使って死神たちが門を創り上げます。
この一連のシーンの追加や技術開発局跡地近隣の大型台座のデザインも、田口総監督と久保先生がやり取りを重ねて映像のような形になりました。
そういう点では、久保先生との関係性はクールを経るごとにより密になっていると思います。
――シナリオ制作で「相剋譚」から変化したことはありますか?

平松

第1クール、第2クールでは、物語の展開もあってコミカルは少し抑え気味で作りましょうという共通認識が、シナリオにも演出にもありました。
でも、第26話で「死神図鑑」が放送され、「このコミカルさを含めてが『BLEACH』だな」とメインスタッフの意識が少しだけ変わった気がします。
コミカル要素を増やすためだけに僕が新たな場面を足すことはありませんが、原作にあるシリアスなシーンに時折混ざっているコミカルなシーンは極力カットせずに活かす方向で書いています。
シリアスなシーンの最中に繰り広げられるコミカルなやり取りを含めて『BLEACH』である、ということをより意識するようになりましたね。
――原作の空気感やキャラクターの性格をそのまま届けるということですか?

平松

そうですね。
前からそこは大切にしていたつもりですし、第3クールでも変わりはありません。
流れの中でどうしても削らざるを得ないシーンはありますが、「相剋譚」で登場するグリムジョーや登場頻度が増すナックルヴァールは、真面目に戦うシーンでも可愛らしく遊べますし、そこも含めてのキャラクター性だと思うので、そこをカットしようという発想はなかったですね。
また、岩鷲や恋次、夕四郎や仮面の軍勢も、それぞれコミカル要素を持ったキャラクターなので、ちょっとした掛け合いやセリフだけでも、楽しい雰囲気を出せているんじゃないかなと思います。
中でも岩鷲は、アフレコ時にお会いする高木渉さんご本人が最高に楽しい方で、その雰囲気や演技を想像しながらセリフを書いています。
――制作中に印象に残っていることがあれば教えて下さい。

平松

各キャラクターにスポットライトが当たる、いわゆる“お当番回”のアフレコはどの回も印象的です。
声優の皆さんは毎回変わらず素晴らしいんですが、お当番回のアフレコは、皆さん「今日は自分の回だ」と熱が入っていて、演技に圧倒されます。
「今日、自分のキャラの決着がつくんだ」という思いが伝わってくるんです。
個人的にですが、第2クールで放送されたルキアの卍解シーンのアフレコの時は、折笠さんの張り詰めた雰囲気に、スタジオ全体がいつも以上に緊張感があったと記憶しています。
――「相剋譚」の制作中にテンションが上がったシーンはありますか?

平松

この先の話なので具体的なシーンは言えないのですが、久保先生からいただいたイメージネームを基にシナリオを書いて、それを再度久保先生にチェックしていただいた回がありました。
そのときに「こういうセリフを使って、お互いに悪い印象を持たせないでキャラクターを対立させていく」という久保先生の表現方法を目の当たりにできたのは面白かったし興奮しました。
いただいたイメージネームは、制作のためだけに使用されるのが本当にもったいないので、「ファンの皆さんが目にできる機会があるといいな」と思ってしまいましたね(笑)。
――イメージネームや資料のやり取りは「相剋譚」で増えましたか?

平松

増えたと思います。
イメージネームのやり取りが増えたきっかけのひとつは、第2クールで描かれた修多羅千手丸の卍解シーンだと思います。
あのシーンはアニメオリジナルなのでどういう演出がよいのかスタッフ陣が悩んでいた中、「とん、とん、からから、とん、からら」を先生が描いてきてくださいました。
たぶん、どう動くのかを確認するためにも、文字での指示書きよりもイメージネームのほうが伝わりやすいと思われたのではないかなと思います。
収録でお会いしたときに「あのネーム、すごく興奮しました」と盛り上がって喋ってしまったので、久保先生にも僕らの“期待”が伝わってしまったかもしれません(笑)。
――第3クールでは原作とは異なる順番で描かれるシーンもありましたが、それにはどのような意図があったのでしょうか?

平松

全体の構成は田口総監督が決めているので、明確な意図は田口さんの中にあると思います。
その構成から自分が感じたのは、“城攻めの臨場感・緊張感を増したいんだな”ということでした。
たとえば、第3クール後半を原作とまったく同じ構成ではなく、順番を散らして描くことで「同時多発的に真世界城で死神VS親衛隊の戦いが展開している」という臨場感を視聴者に伝えられる。
“どこで区切ると引きになるか”は漫画とアニメでアプローチの仕方が異なるので、田口さんがきれいに見せられるように構成しているのだと思います。

初登場時は嫌な奴だった……
推しキャラの不思議な魅力――

――『BLEACH』で好きなキャラクターを教えてください。

平松

僕は更木剣八と涅マユリが大好きです。
剣八は敵を圧倒するパワーと戦闘への純粋な悦びがあって、一方のマユリは、智慧と技術力で敵の能力を上回っていく。
二人とも負ける姿が思い浮かばないし、自分の理屈でしか動かないけど、最後は勝つ。
キャラクター性が理屈をねじ伏せていくのが最高に痛快なんですよね。
ただ、第27話で「案ずるな。妾はマユリと違うて、死者の身体を捏ね繰り回す趣味はない」という千手丸のセリフを聞くと、「マユリってそういえばひどい死神だったな」と初登場時のマユリを思い出して、「マユリが好き」と言っていいのか迷ってしまいますが(笑)。
それでもやっぱりマユリは言動が面白いし、山じいにさえ強い物言いをして馴れ合おうとしない、そんなところも好きですね。
――『BLEACH』のセリフで惹かれたものを教えてください。

平松

海燕のセリフが本当に好きです。
中でも「心は体の中には無え 何かを考えるとき 誰かを想うとき そこに心が生まれるんだ」「心は 仲間にあずけて行くんだ」(共にコミックス30巻268話)というセリフは、『BLEACH』の根源にあるような想いが詰まっていて、最高ですよね。
言葉の選び方、その言葉を最大限に生かすシチュエーションの作り方、キャラクターの表情すべて、読み返す度に久保先生のすごさを感じます。
――「相剋譚」でキーマンだと思うキャラクターを教えてください。

平松

物語としてはやはり雨竜なのかなと思います。
一護と対立してきた理由などが明かされていくので、「相剋譚」のキーマンだと思います。
――演じるのが大変だと思うキャラクターは?

平松

一護が一番大変だと思います。
森田さんは本当に『BLEACH』がお好きで、特に原作が大好きなので、アニメで追加・変更されたシーンを演じられる際には、ご自身の思い描く一護とどう擦り合わせるか、すごく悩まれ、シナリオと向き合ってくださってました。
作品の主人公としての重圧もあると思います。
――サブタイトルの「相剋譚」にちなんで伺います。現在、ご自身の中で相剋していることはありますか?

平松

シナリオを書くことは楽しいですが、一方で、偉大な“原作”に見合ったシナリオが書けているのか毎回プレッシャーを感じます。
また、シナリオが評価されれば素直に嬉しいのですが、そこに葛藤もあります。
『BLEACH』に限らず、映像用に調整をするとはいえ、原作の台詞や展開をそのままにシナリオを作った場合「良かったね」と評価されても、称賛されるべきは原作の良さであり、描かれた先生方です。
僕がオリジナルのシナリオを書いたときに評価されるようなものが書けるのか、原作の魅力を借りていただけと思われないように新たなキャラクターや物語を生み出せるのか、そこにいつも悩んでいます。
頂いた評価と能力に対する自己評価のギャップ、嬉しい気持ちと戒める気持ちが、ずっと自分の中で相剋しています。
ただ、そんな相剋する感情があってもシナリオの仕事は楽しいです。
――最後に、アニメ公式サイトを訪れたファンに一言お願いします。

平松

まずは次の第33話の放送を楽しみにしていただきたいと思います。
そして、これからもアニメオリジナルのシーンがたくさん追加されていきます。
原作で描かれなかったシーンから原作で描かれている場面に補足するように書き足したシーンまで、原作を読んでいる方でも「おっ!」と驚くような場面が毎週出てくるので油断せずに、最後までこの死闘を見届けてください。