BLEACH 千年血戦篇

SPECIAL

伊藤健太郎(阿散井恋次役)インタビュー

『BLEACH』のオーディションは一護役!?
想いが通じて勝ち取った阿散井恋次!

――『BLEACH』との出会いをお聞かせください。

伊藤健太郎(以下、伊藤)

僕は小学生の頃から今に至るまで毎週欠かさず「週刊少年ジャンプ(以下、「ジャンプ」)」を読んでいる子供でした。
ですから、『BLEACH』との出会いは「ジャンプ」に掲載された連載第1話です。
『BLEACH』第1話を読んだとき「今までの『ジャンプ』で連載されている作品と比べて、少しムードが違った雰囲気で面白いな」と思ったことを覚えています。
また、当時読んでいるときから恋次が登場した回はすごく記憶に残っていて「恋次の役をやりたい!」と思っていました。
ですが、『BLEACH』のアニメ化が決まってオーディションの話を聞いたとき、実は恋次はオーディションの対象ではなかったんです。
僕の記憶が正しければ、現世組のキャラクターと幾人かぐらいだったと思います。
それでも、『BLEACH』と関わりたいという思いがあって、オーディション対象キャラの中の一護役を選んでオーディションを受けました。
――一護役のオーディションを受けた当時のことは覚えていますか?

伊藤

覚えています。
一護役のオーディションを受けることが決まっても、僕の中では恋次というキャラクターを演じたいという思いが捨てきれていませんでした。
オーディションの対象ではないキャラクターは、制作の方がオーディションの演技を見てキャスティングしていくこともあるので、なんとなく恋次も意識して一護役を受けていました(笑)。
結果、「阿散井恋次役になりました」と聞いたときは、実はすごく嬉しかったんです。
だから『BLEACH』がメディア展開をするときに、僕もともに歩めた、というのはすごく感慨深いですね。
――恋次のセリフで惹かれたものを教えてください。

伊藤

一番印象的なのは、恋次が一護に放った「恥を承知でてめえに頼む…!!」(コミックス11巻98話)です。
それと、「戌吊」での生活を経て、仲間たちのお墓を前にルキアと「死神になろう」(コミックス11巻98話)と誓い合う回想シーンも好きですね。
あのシーンは原作で読んだときからアニメ化して演じられるときを楽しみに待っていました。
ですが、少年時代の恋次は声の質から女性の声優さんがキャスティングされたので、「ルキアと誓い合うシーンは僕だよね……?」と思ってドキドキしていました(笑)。
――『BLEACH』で好きなキャラクターを教えてください。

伊藤

一読者としては、僕の推しキャラは雛森桃です。
雛森と日番谷との関係性も好きですし、優しかった頃の藍染隊長に尽くす健気なところ、副隊長の実力を持っていてもみんなに優しく儚げなところ、そんな雛森の全部が大好きです。
藍染の本性が明らかになったときは「そうだったの!?」という驚きよりも、「このあと、どうなってしまうんだ……!?」と雛森に感情移入して、心配しながら「ジャンプ」を読んでいました(笑)。
――作品全体を通して、好きなエピソードを教えてください。

伊藤

「尸魂界篇」で一護と恋次がそれぞれ卍解の修業をするシーンです。
修業から新たな力を手にするという「ジャンプ」らしい王道の展開と、『BLEACH』の代名詞とも言える“卍解”という言葉が出てきて、『BLEACH』が存分に表現されていて好きです。
「千年血戦篇」でも霊王宮で修業をしますが、この霊王宮でのエピソードも好きなので僕は“修業回”が好きなのかもしれません(笑)。
――「千年血戦篇」では恋次が修業を経て真の卍解を修得しましたが、原作で読んだときはどんなお気持ちでしたか?

伊藤

初めて卍解した『狒狒王蛇尾丸』を見たときは、とにかく「すごくかっこいい」の一言でした。
そこから真の卍解として『双王蛇尾丸』を目にしたときは、すごくアツくなりましたね!刃節がとぐろを巻く『狒狒王蛇尾丸』の姿から『双王蛇尾丸』になったとき、二刀流のような姿になったのが「いいな」と思いました。
一護が『斬月』を打ち直してもらって二刀になっていたので、「追いついた」という気持ちが湧いて嬉しかったです。
――阿散井恋次というキャラクターを一言で表すとするなら何と表現しますか?

伊藤

“漢(おとこ)”だと思います。
「戌吊」で育ち、ルキアとともに死神になる誓いを立てて真央霊術院へ入学。
そして、流魂街育ちという逆境の中で副隊長にまで上り詰めました。
そして現世で一護と出会い、その出会いから様々な困難を乗り越え、それらの経験を通して色々な考え方ができるように成長しました。
ですが、常に彼の根底には、“漢(おとこ)・阿散井恋次”の判断が存在していて、そこが恋次の魅力だと思います。

10年のときを経て
声優として新たな挑戦⁉

――「千年血戦篇」で受けた印象的なディレクションはありましたか?

伊藤

零番隊との修業を経て、真の卍解を手に入れた恋次をどうすれば声で伝えられるのか、を考えて演じていました。今までは「『狒狒王蛇尾丸』!」と声を張って、突き抜けるようなイメージで演じていました。
『双王蛇尾丸』もそれに近い感じで演じようとしたら、監督や久保先生から「『双王蛇尾丸』は声を張らず、落ち着いた感じで」とディレクションを受けました。
僕個人としては、『狒狒王蛇尾丸』のときよりも声量を上げて叫びたかったんですが……(笑)。
他作品でも恋次のように“はっちゃける役”を演じることも多かったので余計に叫びたかったです。逆に声を抑えて強そうに表現する芝居の経験があまりなくて、日々研鑽しています。
でもそれは、新鮮な経験でしたし新たな挑戦でもありました。
そして同時に、それは“恋次の成長”でもあると思って演じました。
あと、僕はクラシックシリーズのときから恋次の声に特徴をつけていて、『狒狒王蛇尾丸』のうねる様子を声にのせて意図的に抑揚をつけています。
ですが、今回は「少し抑揚をつけない方向で……」とディレクションを受けまして、“うねる”感じから“真っ直ぐ”な感じにしました。
――10年前と比べるとアニメの作画も変化していると思いますが、映像によって演じ方を変えることはありますか?

伊藤

僕の中では、“洋画等で吹き替えをするとき”、“アニメのアフレコをするとき”、“舞台に上がって演じるとき”と、それぞれで声の演技を変えています。
例えば、吹き替えでは、俳優さんがお芝居をしていて情報は映像の中に集約されています。
ですから、音声の表現を加える、という感覚です。
一方でアニメの場合、映像は絵なので、人間の生きた声で映像に情報を補完するということが必要だと思っています。
ですが、「千年血戦篇」では映像の技術が上がって画面の情報量が格段に増えたと思います。
ですから、情報はその絵に任せて、自分の声は極力抑える演技を心掛けました。
――“抑える演技”で苦労したところはありますか?

伊藤

デビューしたての頃は、「役を掴むためにも、少しでもスタッフさんの印象に残る演技をしよう」と、気持ちを強く込めることが多かったんです。
ですから「抑えてください」というディレクションを受けることも頻繁にありました(笑)。
でも、 “抑えた演技”のほうがお芝居は“作りやすい”と思っています。
「もっと出してください」とディレクションを受けるときのほうが大変。
なので、本番前のテストのときは“少し盛って”演技をしています。だからテストがないときが一番困り、「一回テストやらせてください……」と思ってしまいます(笑)。
――アフレコ現場で印象に残っている出来事を教えてください。

伊藤

コロナ禍で現在も分散収録が続いていますが、隊長役の役者さん10人以上が久々に集まって収録できたときがあったんです。
昔からすごくお世話になっている大先輩たちと、10年というときを経て再び同じ作品で集まれたことはとても嬉しかったですし印象に残っています。(中尾)隆聖さんが写真を撮りまくったり、先輩たちのテンションが上がっている姿を見たら「みんな『BLEACH』が好きで、また会えた喜びが溢れている」と感動し、愛おしさを感じました。
あの同窓会のような雰囲気は最高でした。
「そういえば、お前、朝まで飲んで遅刻したことあるよな」みたいな、思い出したくない昔話もありましたけど(笑)。
――10年前のアフレコ現場は今も印象に残っていますか?

伊藤

残っています。
当時は狭い空間に役者さん全員が集まっていたので、収録現場は、まるで“体育会系の部室”の雰囲気でした。
――第33話ではアニメオリジナルで恋次と雨竜の戦いが描かれていましたが、そのときのアフレコはどうでしたか?

伊藤

このシーンも杉ちゃん(杉山紀彰さん)と一緒に収録しました。
先ほど、真の卍解を修得した恋次の声を「抑えた演技で」と話しましたが、この戦いでは声を張った昔の恋次で演じられたのが嬉しかったです。
雨竜は恋次が現世に来て初めて戦った相手でもあるので、懐かしい組み合わせでした。
第3クールの「相剋譚」では、一護と雨竜の“相剋”にフィーチャーされがちですが、「恋次と雨竜のこんな展開が描かれるのもエモいよね」と杉ちゃんと話したことを覚えています。
――「千年血戦篇」は原作が完結していて、視聴者も結末が分かっている状況ですが、演じる上で意識することは何ですか?

伊藤

演じるときの一番大きな違いは、まさに結末を知っているか、結末を知らないか、だと思います。
10年前のクラシックシリーズまでは、視聴者も我々も結末が分からない状況でした。ですから、キャラに新たな展開があったとき、声の表現に違和感がないようにする必要がありました。
しかし「千年血戦篇」は視聴者も我々もともに結末が分かっている状態です。
結末が分かっていると、そこから逆算して役作りをするという手法ができるんです。
ただ、ひとつだけは意識しないようにしました。恋次とルキアの関係性です(笑)。
あの展開を漫画で読んだときは「いつから!」と突っ込んでしまいました(笑)。
YouTubeの「ジャンプチャンネル」で公開されている『BLEACH WE DO knot ALWAYS LOVE YOU』の収録でも「これは役作りに影響が出てしまう?」と思いましたが、恋次とルキアの“ラブ感”は「千年血戦篇」では最後まで絶対に隠す、というのが僕と折ちゃん(折笠富美子さん)の使命です(笑)。
――阿散井恋次を演じていて、“ラブ感”の他に難しい部分があればお聞かせください。

伊藤

一護が他の死神と関係を築いていっても“恋次とルキアだけは特別なんだ”というのを伝えることの難しさがあります。
だから、恋次と一護のやり取り一つ一つに、死神として“魂”の部分で一護とは繋がっていることを伝えたいと思いながら演じています。
――「相剋譚」にちなんで伺います。現在、ご自身のなかで相剋していることはありますか?

伊藤

僕の“相剋”はカロリーインとカロリーアウトです。
趣味でロードバイクを10年くらい続けていて、“楽しく” “遠くへ” “高いところまで”という想いで愛車と走っていますが、元気に走り続けるために身体も丈夫にしておかなくてはなりません。
一方で、ロードバイクで目標距離を走ったあとは、ご当地の美味しいお酒と料理が食べたく、それを楽しまなきゃ乗った意味もないという気持ちあり……。
でも、そうすると消費カロリー以上を摂取してしまうときがあって(笑)。
どんなに走っても痩せない……というジレンマに陥りながらロードバイクとお酒と向き合っています。
そんな気持ちを抱きながらもう10年間も続けているので、きっとこれからもそんなことを“相剋”しながら楽しむと思います(笑)。
――最後に、アニメ公式サイトを訪れたファンに一言お願いします。

伊藤

皆さん「千年血戦篇」を楽しんでいらっしゃいますでしょうか。
阿散井恋次というキャラクターを通して、僕なりに恋次が過ごした月日、『BLEACH』の世界観を伝えられるように演じています。
ぜひ最後の恋次とルキアの“あのシーン”までお付き合いください。