中尾隆聖(涅マユリ役)×釘宮理恵(涅ネム役)インタビュー
究極のドSとドМ(!?)両極端を兼ね備えるマユリ――
ネムの成長へと繋がった“大きな愛”!
――演じられている役の魅力をそれぞれお聞かせください。
中尾隆聖(以下、中尾)
マユリは皆さんご存知の通り、ドSな部分です(笑)。でも、マユリはドSであってドМでもあると思います。
ですから、両極端を兼ね備えているところが魅力です。
釘宮理恵(以下、釘宮)
ネムの魅力は、第36話で垣間見えたように、マユリ様に従順になっていますが、内面に隠れていた“強い意志”があるところだと思います。――では、“釘宮さんから見たマユリの魅力” 、“中尾さんから見たネムの魅力”をそれぞれお聞かせください。
釘宮
初めの頃は、「どうしてマユリ様は、ネムに対してこんなに厳しくされるのだろう?」と不思議に思っていました。中尾
そうだよね(笑)。でもそれは全部“愛ゆえに”だから。
釘宮
そうなんです。なので、マユリ様は“愛”も魅力だと思っています。
初めの頃の「マユリ様に創られた存在」という情報だけのときは、「自身で創り変えることができるから厳しくしているのかな」と思っていました。
でも二人の過去が明らかになって、マユリ様の厳しさが“大きな愛”だったと知ったとき、ネムは“愛”を感じていたから、例えマユリ様から厳しくされてもひたすらお仕えしてきたのだと思い直しました。
中尾
原作の中で描かれているように、マユリは『眠七號』と呼ばれるネムを創ったとき、「これで最後」という気持ちではなく、「失敗したらまた次を創ろう」という気持ちだったと思います。でもその気持ちが特別なものに切り替わった瞬間が面白くて、マユリの中で『眠七號』から“ネム”へとなったところ。そこが今まで見えていなかったマユリの魅力でもあると思います。
――第36話はマユリとネム、それぞれの“想い”が今までのエピソードよりも色濃く描かれていましたが、演じるうえで意識したことはありますか?
釘宮
今までのネムは、マユリ様からの“愛”を表には出さずに「はい、マユリ様」と従っていました。でも今回はネムが初めて自分の意志で行動し、抑制された壁を破り、それは、“静かに積み重なった想いが、全部吐き出された”というものだと思い演じました。
それと、アプリ『BLEACH Brave Souls』の音声収録のとき、アニメ「千年血戦篇」と同じ制作スタッフの方がいらっしゃって、「アニメでは、ネムの最期までを描くので、すごくいいシーンになりそうで楽しみです」と言われて、すごくプレッシャーを感じていました。
そして第36話のアフレコ現場に入ったときにもやはり「すごくいいシーンです」と言われ、緊張感がものすごくありましたね。
ですが収録を終えて思うのは、すごく幸せな回だったなということです。
中尾
マユリの本質的な部分には“ドSであり、ドМである”というところがあると思いますが、今回はそれを超えた、“究極のドSであり、究極のドМである”というのは意識しました。“究極”をうまく表現できればよかったのですが、多分できなかったかもしれません(笑)。
――中尾さんが「できなかった」と思うのは何故ですか?
中尾
「“究極”の表現をできたのかどうか分からない」からです。自分の中に答えが存在するものではないので「表現できた」とはなかなか言い切れない。
答えは久保先生が持っていらっしゃると思うので、ぜひ機会があれば伺ってみたいです。
――第36話を演じて印象に残っているセリフ、やりとりなどはありますか?
中尾
「お前に自らの判断で死ぬ自由など無い!」や「……私が教えてもいない事を 勝手に学んだとでも言うのかネ………」(ともにコミックス70巻640話)などの、心の中では喜んでいるけれど、その喜びを隠しているようなセリフが印象に残っています。釘宮
私は、ネムが「声が大きいですマユリ様」と言って「黙れ」(ともにコミックス70巻641話)とマユリ様が返す、一連のコミカルなやりとりが好きです。このやりとりにマユリ様とネムの進化した新たな関係性が見えた気がして、ニヤッとしました。
中尾
あったね(笑)。釘宮
今までであれば言えなかったことだと思うので、あのやりとりにもネムの成長を感じました。――コミカルな一面を持つマユリですが、初登場時はかなり残虐的なキャラクターだったと思います。
中尾さんはどちらのマユリがお好きですか?
中尾さんはどちらのマユリがお好きですか?
中尾
両方好きです。マユリはその二面性があるからこそ面白いキャラクターだと思っていますので。
軽いノリがあるからこそ残虐性がより活き、逆に残虐性があるからこそ軽いノリもより活きてくるのだと思います。
――釘宮さんはどちらのマユリがお好きですか?
釘宮
私も両方好きです。マユリ様の愛情たっぷりの罵倒を受けられるのは私だけなので(笑)。
歪んだ“癖”がすくすくと育っています。
10年のときを経て
声優として新たな挑戦⁉
――『BLEACH』との出会いをお聞かせください。
釘宮
私はオーディションを受ける際に原作を読ませていただきました。ただ、オーディションのときの詳しいことは覚えていなくて……。
中尾
『BLEACH』のアニメが始まったのは20年も前の話ですから(笑)。僕もあまり詳しく覚えていないかもしれません。
釘宮
最初は一護の妹・夏梨役で参加をさせていただき、出番があるたびにスタジオに置いてある漫画を読んでいました。ただ、登場するシーンが限られているキャラクターだったので、当時は作品を読みながら「このキャラはどんな子?」となっていました。
ネムは夏梨役として参加させていただいている中で、お話をいただいた役でした。
当時はセリフも少なかったですし、ネムがこんなにもフィーチャーされるとは思っていなくて。
夏梨のほかに織姫の「盾舜六花」の一人・リリィ役も担当させていただいたので、若手ということもあって「たくさんの役をやらせてもらった」という印象でした。
隆聖さんはマユリ様のオーディションを受けられたんですか?
中尾
僕はオーディションを受けていないと思う。『BLEACH』との出会いは、僕も参加させていただくことが決まってから原作を読みました。
――それぞれキャラクターの第一印象をお聞かせください。
中尾
マユリは、能力の説明や解説が大変なキャラクターという印象でした。セリフ量は多いですし、マユリの能力は複雑で、ちゃんと理解できなかったときは「どういうこと?」と制作の方に確認していたのを覚えています(笑)。
釘宮
ネムは第36話のエピソードが描かれるまで、セリフのほとんどが「はい、マユリ様」だったので、当時演じていたときの第一印象は、“心のないロボットみたいなキャラクター”と思っていました。ですが、マユリ様と雨竜が戦った後の雨竜とのやり取りから「まったく心がないわけではなく、ネムもどこかに“想い”や心があるんだ」と思い至りました。
――『BLEACH』で好きなキャラクターを教えてください。
中尾
過去が明らかになった黒崎一心です。死神の力を失うことになっても真咲を救う、それを知って好きになりました。
一心自身には何一つ得することがないのにも関わらず、浦原の説明を遮って「わかった やる!」(コミックス60巻535話)と即決。
“死神をやめることも真咲のためだったらいいよ”という、彼の想いが潔くてかっこいい。
僕が一心の立場だったら即決できないと思います(笑)。
釘宮
私はコンが好きです。ぬいぐるみのかわいい見た目と、『BLEACH』を楽しく明るくしてくれる“癒しキャラ”的なところが好きです。
――『BLEACH』のセリフで惹かれたものを教えてください。
釘宮
卍解です。今では“卍解”という言葉は皆さんに通じる言葉になっていて、作品内で生み出された言葉が世間に浸透しているところがすごいと思います。
ネムは斬魄刀を持って戦わないので「卍解」と言えるキャラクターではないですが、他の隊長さんの「卍解」を聴いて、いつも「かっこいいな」と思っていました。
中尾
マユリのセリフの中にはたくさん惹かれたものがあって一つに決めかねますが、中でも「こいつ面白い奴だな!」と思ったセリフは「百年後まで御機嫌よう」(コミックス34巻305話)です。他にもまだまだありますが、雨竜との戦いのときに言った「憶えなくていいヨ どうせ すぐ何も判らなくなる。」(コミックス14巻121話)というセリフも好きです。
マユリのセリフは一つ一つがかっこいいので、友人に連絡するときにマユリのセリフのスタンプをときどき送ったりしています(笑)。
釘宮
隆聖さんから送られてくると説得力が違いますね。――マユリは様々なビジュアルで登場しますが、お二人の“好きなマユリのビジュアル”はありますか?
釘宮
マユリ様は、どうしてこんなに違う姿になるんですか?中尾
マユリの顔は全部化粧だからね(笑)。釘宮
ご自分でやってらっしゃるんですね。中尾
素顔は「尸魂界篇」で一回だけ登場したけれど、あの顔が初めから分かっていたら別の人がキャスティングされていたかもしれない(笑)。釘宮
アフレコの際、映像で毎回マユリ様の姿が変わっているのがいつも不思議でした。だから『眠七號』のネムのように“何代目マユリ様”みたいな可能性もあるのかなと。
中尾
「千年血戦篇」で光り輝くマユリが登場したときは、まさに“究極”の姿で「なんだこれ!太陽!?」と思いました(笑)。素顔のビジュアルも好きですけど、やっぱり一番は「千年血戦篇」で光り輝くマユリです。
釘宮
私も同じです。マユリ様が行き着いた先の姿のような気がして。
中尾
ビジュアルでいうと、マユリのコスプレをしてくれる人は、「破面篇」のマユリの姿が多いね。しかもほとんどが女の子。
釘宮
そうなんですか!?マユリ様のコスプレは作り甲斐がありそうですね。中尾
これからは光り輝く“太陽の姿”のコスプレが増えたりするのかな(笑)。釘宮
この太陽のようなマユリ様を考えた久保先生のセンスはすごいです。中尾
本当にすごい。そういえば、久保先生に伺いたいことがあるんです。
“ネムのなおし方”。
――ザエルアポロとの戦いの後に描かれたシーンですか?
中尾
そうそう!なおしているときの音と赤らめた恋次と雨竜のリアクションだけで描写されて、雨竜と恋次が「なおった――!!!!」(コミックス35巻306話)と言う(笑)。釘宮
「どうしてそうなったの?」というシーンですよね。中尾
マユリに関する質問を募集すると「どうやってネムをなおしたんですか?」と質問をされることがあって。僕も分からない(笑)。
――お互いに訊きたいことはありますか?
釘宮
えー、こんな機会をいただけると思わなかったので悩みますね。普段どのように作品に向き合っていますか?
中尾
僕は担当するキャラクターを自分の中に落とし込むまでに、どうしても時間がかかってしまいます。作品を読み込んだり、キャラクターを演じながらじっくりとそのキャラクターを自分の中に落とし込むのに1年ほどかかってしまう。
それぐらい経つと、「このキャラクターなら、こうしゃべるだろう」と勝手に出てくるようになります。
マユリは、20年も担当させていただいているので、“マユリが勝手にしゃべってくれる”という感覚になるときがあります。
でも、初回からある程度キャラクターを掴んでしゃべる方もいますし、キャラクターにかける時間は人それぞれだから僕も同じことを訊きたいな。
釘宮さんはどうしているの?
釘宮
私は、中尾さんのようにじっくりではなく、スッと演じています。例えば、「この場面で「はい、マユリ様」というセリフがあるからこういう気持ちでしゃべろう」という感じで、そのときにスッと入って演じます。
中尾
やっぱり人それぞれなんだね。釘宮
それともう一つ。隆聖さんの声は、実際にはきつく聴こえる声ではないのに耳に刺さるように入ってきて、“意味と実感を伴って聴こえる”という感覚なんです。
そして当然のごとく言葉に重みがあって、耳だけではなく心にも刺さるように入ってきます。
言葉が脳に直接届いてくるような感覚で、すごくストレートに伝わってくる。
それはどうしてなのでしょうか。
中尾
皆さん聞いていますか(笑)。こんなに素晴らしい褒められ方はないですよ。
すごく嬉しいです。
釘宮
本当ですか?皆さん隆聖さんの声を聴きすぎて分からなくなっているんですよ。中尾
そうなのかな。僕の中では葛藤もあって、様々な役柄をいただくからこそ改めて「人間の役をやりたいな」と(笑)。
「大塚明夫(京楽春水役)は色っぽい声でいいな」とか「あんなふうに喋りたいな」とか(笑)。
釘宮
まさにアニメ千年血戦篇第35話の明夫さんはすごかったですよね。中尾
うん、すごかった。――釘宮さんが目指すところは、そこですか?
釘宮
高次元過ぎて、目指せるようなところではない気もします。人智を超えている声じゃないですか(笑)。
中尾
だから人間の役が少ないのか(笑)。――「相剋譚」にちなんで伺います。
最近、ご自身が相剋していることはありますか?
最近、ご自身が相剋していることはありますか?
釘宮
やりたいことはたくさんあるけれど、それに費やす時間がない、というジレンマ、相剋をしています。中尾
僕は難しいことですけど、アフレコを行うときに“声優だからといって全部はっきりしゃべらなくてもよいのでは?”というジレンマに向き合っています。例えば、舞台であれば声を出さなくても身体で表現して伝えられることがありますが、アフレコでは“しゃべらない”ということはできないし、はっきりと言葉を伝えなきゃいけない。
自分の中で「ここは、はっきり言わなくてもいいシーンだ」というところは、毎回挑戦はするんですけどね(笑)。
釘宮
そうですね。挑戦してみるものの「はっきり聞こえるように言ってください」とディレクションを受けて。
自分の中で「感情的なすごくいい演技ができた!」となっても「聞き取りやすいようにもう一回お願いします」と言われてしまいます。
中尾
声優であればみんな戦っていることだよね。例えば、映画やドラマなどで感動するシーンで俳優さんが泣きじゃくって言葉にならない演技をしても、感動して涙が出るじゃないですか。
それをアフレコしてくださいと言われると、私たちはセリフとして言葉をちゃんとお伝えすることが仕事なので、はっきりと言葉を伝えるように演じなければなりません。
演出の方もそれを分かったうえで「もう少し聞き取りやすいようにお願いします」とおっしゃられていますが、自分の中では「ここは、はっきり言わなくていいんだよな……」と思ってしまうときがあります(笑)。
釘宮
気持ちは合っていても言葉が伝わらない演技はどうしてもありますし、逆に気持ちを入れ過ぎてもう少し絵に合わせて、ということもあってもどかしいですよね。私もこのジレンマにはいつも悩んでいます。
でも今、隆聖さんがおっしゃられたので「これからもずっと悩んでいくんだ」と覚悟を決めました(笑)。
中尾
僕は、声優がセリフに関してこれから目指すところは、“滑舌よくしゃべること”ではないと思っています。先ほど言った“言葉にならない演技”を言葉で表現できるようになることが、まさに“究極”ですよね。
声優であれば「ちゃんとしゃべらなければならない」という心構えをみんな持っていると思いますが、いつか「“ちゃんと”しゃべるって何?」という壁にぶつかるのではないかなと思います。
――最後に、アニメ公式サイトを訪れたファンに一言お願いします
釘宮
原作で描かれていたマユリ様とネムのエピソードが、約10年越しにアニメで描かれネムの声として関われたこと。そしてこのエピソードを隆聖さんと一緒に掛け合いできたこと。
さらに、それを皆さんに届けられること、すべてが私としても、ネムとしても幸せでした。
素晴らしいクオリティで続いている「千年血戦篇」をご覧になっているときは、何もかも忘れて『BLEACH』の世界に浸って楽しんでいただければと思います。
中尾
アニメが終わってもマユリとネムのことを心のどこかに残していただけたら嬉しいなと思います。これからもマユリとネムの二人を忘れずにいてください。